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堀場の自動車の排ガス計測システムは、なぜ美しくシンプルなのか

欧州の新規制を見据えて開発、機械工業デザインを極める
堀場の自動車の排ガス計測システムは、なぜ美しくシンプルなのか

開発メンバー(左から)花田部長、恩田チームリーダー、島氏

 今年で46回目を迎えた「機械工業デザイン賞」。最先端の機能や使いやすさはもちろんのこと、見た目の美しさやシンプルな外観が際立っている製品に贈られ、今回、最優秀の経済産業大臣賞に選ばれたのが、堀場製作所の車載型排ガス計測システム。その開発秘話を紹介する。

ユーザーフレンドリーを目指して


 2017年9月には欧州で実路排ガス試験(RDE)規制が開始される。堀場製作所の「OBS―ONEシリーズ」は、この規制を見据えて開発した。路上走行中の自動車から排出される一酸化炭素(CO)、NOX(窒素酸化物)、粒子状物質(PM)などの排ガス成分などの量を測定する車載型排ガス計測システムだ。

 従来の実路測定用分析計はサイズや大きさだけでなく設置に工具が必要などで難しく、測定に要する時間がかかっていた。そこで小型でフレキシブル、簡単な設置、ユーザーフレンドリーを目指し開発を進めた。

 特徴は必要な計測ユニットだけを選んで使えること。「トラックと乗用車では取得するガス種が異なるため、一つ一つの機能を分離した方がユーザーの要求に応えやすい」(花田和郎自動車計測設計部部長)という。最低限の測定ができる乗用車のセットを基準とし、さまざまなガス種を測定、入れ替えできるようにユニットごとに固定する形を選んだ。

 OBS―ONEは構造体であるアルミフレームに持ち手の機能を持たせ、1人でも2人でも持ちやすくしている。

 同時にフレームは装置に接続する配管、配線を保護する役割もある。フレームに形成したガイドに沿って上下のユニットを連結可能にし、締結のための工具を不要にして搭載時間の短縮につなげた。装置の角も丸みを付け座席を傷つけず、シートベルトでも固定できる。

 配管、配線などの接続、操作は前面に集めた。一見難しそうな計測も、クリエイティブデザインチームの島充子氏は「実際に装置を触ると簡単に分かるデザインにした」。

 一度は完成形ができたものの従来の延長線上だった事や、今後の主力になる事もあり「上から駄目出し」(花田部長)となった。恩田義久自動車計測設計部メカニカルデザインチームチームリーダーは「搭載時間の短縮でも、頑張った分はかえってきた」と手応えを感じている。
(文=京都・水田武詞)

VWの不正見抜いた測定器


日刊工業新聞2015年10月06日



 来日したフランスのマニュエル・バルス首相が堀場製作所の本社・工場(京都市南区)を訪れた。堀場製作所は1996年に子会社化した医用事業を手がけるホリバABX(モンペリエ市)があるなどフランスとの関係が深い。バルス首相は堀場製作所が強みとする自動車計測システムや分析センターなどを見学。案内した堀場厚会長兼社長は「環境関連にバルス首相自身が興味をもっておられて、熱心に説明を聞かれていた」と述べた。

 一方、同社の排ガス測定装置が米国で独フォルクスワーゲン(VW)の排ガス不正の発見に導いた格好。堀場社長はこの不正問題の第一報を聞いた際は「そんなことはありえないと思った」としたが、「検知はしたが、“ジャッジ”はしていない。我々の装置は正しくはかるものであり、それを提供するまで。どう対応するかは(供給先の)自動車メーカーや政府などの話になる」と話した。

 その上で「はっきり結果として出ることを認識しておけば(こうした不正問題は)起こらないのでは」との見方を示した。ただディーゼルエンジンについては「誤解されないようにしてほしい。窒素酸化物(NOX)など以外は燃費も良いし、優れたエンジン。大半の企業はしっかり取り組んでいる」と今回のVW不正を受けての技術開発減速を懸念した。
日刊工業新聞2016年7月29日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
昨年、VWの排ガス不正を見抜いたと話題になった堀場の測定器。堀場会長の「検知はしたが、“ジャッジ”はしていない。我々の装置は正しくはかるもの」という言葉が象徴しているが、正しくはかるには、まずユーザーが気持ちよく簡易に使えるのが基本。それを突き詰めていくことでとてもシンプルなデザインになったのだろう。

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