ニュースイッチ

白衣でなく、嘆きの天使?看護士悩ます書類、暴走老人・・

免許保有者200万人のうち60万人が看護師の職に就いていない現実
 病院ではさまざまな職種の人々が働いています。大半が国や地方自治体に認定された有資格者である点で世間一般の会社組織と大きく異なっています。こうした組織は、何かと好奇心の対象になるのでしょうか。テレビや映画の題材として事欠かないようです。

 例えば、医療ドラマに登場する医療関係者は極端な激情家や、スーパーヒーロー、スーパーヒロインであったりし、思わず苦笑してしまいます。恐らく同じように国家資格者の集まりである警察や消防の関係者もドラマに描かれた自分たちに対し、現実はそうでないと感じている筈です。

 ところで病院職員中最大勢力である看護師は、“白衣の天使”と呼ばれています。献身的な姿がそうした呼び名を生んだのでしょうが、現実の看護師には気恥ずかしい呼称でしょう。病院長という立場からから映る看護師は、頼もしい同僚、時に手強い相手、遊びも恋愛もこなす現代っ子、育児、仕事、家庭、に悩む一人の女性(男性)などです。

 医療現場を悩ませていることの一つに書類の多さが挙げられます。実働時間の7割が書類記載に追われているという報告もあります。医療は人が人を看る(診る)という点が特徴です。IT産業や製造業のように不特定多数を対象とした産業ではなく、もっと泥臭いものです。

 しかし、契約と記録を重要視する現代社会の仕組みは患者さんとの接触から医療者を遠ざける方向に向かわせている、といっても差し支えありません。もっと患者さんの傍に居てあげたいという看護師の嘆きが聞こえてきます。一方、自分の権利だけを高圧的に要求し、他人を顧みない暴走老人患者の増加も医療現場を悩ます種です。団塊世代としては恥ずかしい限りです。老成が求められる高齢社会、これほど皮肉な構図はありません。

 家庭、育児と仕事の両立、いわゆるワークライフバランスも病院で働く看護師の抱える大きな悩みです。待機保育児童問題は私たちにとっても切実な課題なのです。看護師免許保有者200万人余りのうち、実に60万人が看護師の職に就いていないのもこう言った事情と無関係ではありません。

 こう書いてくると嘆きばかりで「白衣の天使はどこへ行った」と聞かれそうです。しかし、さまざまな悩みを抱えながらも患者さんの訴えに耳を傾けるふとした姿、患者さんとのやり取りを垣間見る時、「大丈夫、白衣の天使はまだ滅んではいない」と思うのです。
<文=中西泉(医療法人社団慶泉会町田慶泉病院理事長)>

日刊工業新聞2016年7月15日
昆梓紗
昆梓紗 Kon Azusa デジタルメディア局DX編集部 記者
最近では医療現場のIT化を推進しようと頑張っているITベンダーや現場も増えています。これからより医療機関にお世話になる人が増えるので、現場の改善が進むことを期待します。

編集部のおすすめ