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進むネット広告の拒否技術。「知りたい=買いたい」をどう最適化する?

いつか相手の声や表情から興味の有無を判断できる時代に
 先日、小欄でネット検索のキーワードに連動したリスティング広告の技術に触れたところ、いくつか感想を頂いた。「広告が多すぎて迷惑なのは同感だ」「カメラまで使って監視されるようになってはたまらない」というものが多かった。

 興味深いのは、ユーザー側の対策が進んでいるという話だ。最近のブラウザー(閲覧ソフト)には、第三者が開発した小規模なソフトウエアを組み込むアドオン(付加)機能が備わっている。このアドオンの中に、リスティング広告などの表示を拒否できるものがある。

 実際にインストールして使ってみた。すべての広告が消えるわけではないが、確かににぎやかだった画面がシンプルになる。特定の広告だけを例外に設定して表示することも可能だ。

 これが果たして良いことなのかどうか。メディアにとって広告は有用な情報のひとつであり、貴重な収入源でもある。広告拒否が一般化したら、経営基盤の弱いネットメディアの多くは立ちゆかない。

 悩ましく感じていたら、最近は逆に広告を拒否したブラウザーでは読めないブログなども登場しているとか。技術はまさに”秒進分歩”。ユーザーの利便性や新たな可能性を論じるのは難しいと、あらためて思う。

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 冷蔵庫、車、ポンプ、プーリー、ベアリング―。検索サイトと連動したリスティング広告で、パソコン画面の一角が埋まっている。よくある光景だろう。

 家電製品はともかく、記者の仕事で関わる業務用機器は私生活とは無関係であり、潜在顧客にはならない。プロ向けの通販サイトの広告がずらりと並ぶと「すみません。お客じゃないんです」と、つい呟きそうになってしまう。

 ブランドの認知度を高める目的の一般向け広告とは違い、検索ワードや購買履歴を活用したデータ解析型の広告は顧客の潜在ニーズに迫る技術だ。とはいえ「知りたい=買いたい」とも限らないのが問題点。

 経営戦略論を専門とする関西大学教授の上野恭裕さんは「工具商社の仕事の多くはネット通販で代替可能だが、すべてを代替するのは不可能」と話す。相手の声や表情から興味の有無を判断して瞬時に別の提案を繰り出す芸当は、ITにはまだできない。

 カメラを通じて、人工知能がパソコンやスマートフォンの前の人の表情を読み取る技術も開発が進んでいる。いずれソーシャル・メディアへの書き込みや「いいね」を押す時、こちらの本心がネットの向こうに伝わるようになったら、表情を練習する必要があるかも。
日刊工業新聞2016年6月24日7月18日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
自分の情報がどんどん、検索エンジン業者などに吸い上げられていることを多くのネット利用者は自覚していません。広告の表示・拒否問題は、そんなネット社会の隠れた部分に気づかせてくれます。といっても利用者の側にできることは少ないし、メディアも対抗する力はない。検索エンジンなどを運営するプラットフォーマーばかりが利益を上げる構造は、いずれ問題になるように思えます。

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