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ラットの心筋細胞で泳ぐエイ型ロボット開発、光を当てるとヒレが動作

左右のターンも自由に、ただし移動速度は時速9m
ラットの心筋細胞で泳ぐエイ型ロボット開発、光を当てるとヒレが動作

遺伝子組み換え技術によるエイ型のソフトロボット(Credit: Karaghen Hudson and Michael Rosnach)

 実験用の大型ネズミであるラットの心筋細胞と機械的なメカニズムを組み合わせ、エイのように泳ぐソフトロボットが米ハーバード大学で開発された。前方から青い光を当てると、エイの「ヒレ」にあたる部分が波打つように動き、水の中をゆっくり移動する。しかも光源に向かってロボットが泳ぐように調整することで、レーザーポインターで誘導しながら、簡単な障害物を避けて水の中を移動することにも成功した。

 今のところ動きが非常に遅く、時速わずか9mしかないが、もしかすると将来、生体組織を組み込んだハイブリッドタイプの水中移動ロボットの開発につながるかもしれない。研究グループでは人工心臓への応用も視野に入れているという。成果は7月8日付の米サイエンス誌に掲載された。

 このロボットは全長16mmで重さは10g。モデルとしたエイの10分の1の大きさ。エイが平たいヒレを前後に波打たせながら泳いでいる姿をヒントに、光に反応して収縮する心筋細胞を遺伝子組み換え技術で作り出し、それを駆動源にヒレの動きを再現した。

 一つのロボットに約20万の生きた心筋細胞が使われ、これらの細胞は光に反応するように遺伝子操作されている。ウイルスを使って、光に反応する遺伝子を心筋細胞に導入、青い光が照射されると導入遺伝子のスイッチが入り、それによって心筋細胞が収縮するようにした。

 通常のエイのヒレは、下方向と上方向にそれぞれ収縮する筋肉を持っているが、このロボットは仕組みを単純化するため、ラットの心筋を下方向だけの収縮に利用。2枚のシリコーン樹脂でできた平らなシートの間に、金でできた2次元形状の骨組みを挟み込んだメカニズムを持つ。さらに、シリコーンの上には培養たんぱく質を使って、心筋細胞がエイのヒレの筋肉と同じように放射状に配置してある。

 こうしたバイオとメカのハイブリッド機構によって、ヒレが下方向に収縮した後は、金の板の復元力で上方向に押し戻され、本物のヒレのように上下に波打つ動きを作り出した。実際には、放射状に曲がりくねったパターンに配置された細胞に光が照射されると、つながった細胞が時間差で次々と収縮することで、前後に波打つ動作を生み出す。

 ロボットが移動する方向と速度も調整でき、それには照射する光の周波数で心筋の収縮速度が異なる原理を利用している。左右にターンする際には、左右のヒレにそれぞれ違う周波数の光を同時に当て、ヒレの動く速度の違いから曲がって泳ぐようになっている。この研究にはNIH(米国立保健研究所)や米陸軍などが研究資金を支援した。

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藤元正
藤元正 Fujimoto Tadashi
実際には細胞が生きながらえるようにした培養液の中でないと動作せず、川や海の中でそのまま泳げるわけではないらしい。とはいえ、心筋細胞という生体組織を駆動源に使ったハイブリッド機構は、ロボットの新しい方向性を切り開いていく可能性がある。

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