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テスラ車の死亡事故で、自動運転の規制強化につながるか

そもそも向かってくる車の横方向ターンは緊急自動ブレーキの対象外だった
テスラ車の死亡事故で、自動運転の規制強化につながるか

テスラの「モデルS」(同社サイトから)

 米テスラ・モーターズの主力車種「モデルS」が半自動運転のオートパイロット機能での走行中に衝突事故を起こし、運転手が死亡していた問題で、あらためて現段階での自動運転機能が完成の域にほど遠いことが浮き彫りになった。これを受けて、これまで自動運転などの先進的な安全技術に対し比較的静観の立場を取ってきた米運輸省道路交通安全局(NHTSA)も、7月中に自動運転車に対する試験のガイドラインを出し、規制強化に動くとの観測が高まっている。

 自動運転はこれまで「人間の運転より安全で、交通事故を減らせる」とそのメリットが喧伝されてきた。その急先鋒にいるのがグーグルやテスラだが、両者のアプローチは異なり、グーグルは人間の介在しない完全自動運転のほうが安全とのビジョンを持つ。テスラのオートパイロットのように半自動で、自動運転からマニュアルに切り替わる際に事故のリスクが高まると見る向きもある。

 今回の死亡事故について、テスラは6月30日に公式ブログで「累計1億3000万マイル(約2億900万km)のオートパイロット運転走行で初の死亡事故」と、その頻度の低さが統計的にも裏付けられている点を強調しつつ、事故自体が、衝突相手の大型トレーラーを検知しにくい極めて特殊な状況下で起こったことを理由に挙げている。

 ただ、「特殊な状況」とはいえ、死亡事故という衝撃的な事態に運輸当局はもちろん一般消費者の不安も拭いきれず、これをきっかけに自動運転技術そのものや運用手法などをめぐって、見直しを迫る声が世論が強まってくるかもしれない。実際、WSJの報道によれば、調査結果にもよるが、今回の事故で2万5000台のテスラ車がリコールされ、当局から画像処理・検知ソフトウエアの変更を求められるかもしれないという。

 事故について、テスラのブログでの説明によれば、モデルSが中央分離帯のある幹線道路を走行中、対抗してきた大型トレーラーが左折し、モデルSと直角方向に道路を横切った時に、その側面にモデルSが突っ込んだという。「オートパイロットとドライバーはどちらも、晴れた青空が背景だったため大型トレーラーの真っ白な側面部分を認識できず、ブレーキが作動しなかった。トレーラーの車高が高いという極めて珍しい状況が重なって、モデルSはトレーラーの下を通る形になり、トレーラーの底部がモデルSのフロントガラスにぶつかった」と説明している。

 ただ、モデルSのオートパイロット用に画像処理・検知ソフトウエアを提供するイスラエルのモービルアイ(Mobileeye)側の説明とは若干食い違いがみられる。モービルアイは、7月1日に、BMWおよびインテルと協力して完全自動運転車を2021年に市場投入すると発表した企業で、自動運転分野でGMやフォルクスワーゲン、日産などとも提携関係にある。

 「ストリートインサイダー」が掲載した、モービルアイ広報最高責任者のダン・ガルベス氏の声明では、そもそも現行のモデルSには、この衝突事故のような状況を回避できるような技術は装備はなされていないというのだ。「現行世代の緊急時自動ブレーキ(AEB)は(前方車両の)後部への衝突回避用と定義され、そのように設計されている。今回の事故は車両の横方向からの侵入が関わり、現行のAEBはそれに反応できるようには設計されていない」(ガルベス氏)。

 さらに同氏によれば、モービルアイのシステムには2018年から「進路を横切る横方向のターン(Lateral Turn Across Path=LTAP)」を検知する機能が加わり、欧州で実施されている自動車安全テスト(Euro NCAP)の自動車安全性能評価に2020年から盛り込まれる予定だとという。

 テスラとしても、現行のオートパイロット機能はあくまで試験版との位置付けで、ユーザーには使用中も運転者が安全運転の責任を負い、ハンドルから手を離すべきではないと呼びかけている。それでも、ほかの大手自動車メーカーが慎重な姿勢でなかなか実車を発売しない一方で、オートパイロットの未来的な機能に魅せられるテスラオーナーは多い。ハンドルから手を離して運転してみせたり、運転中に目の前に新聞を広げて読んだりといった映像が相次ぎユーチューブに投稿され、中にはオートパイロットのソフトが状況を誤って判断し、あわや事故につながるような場面も映し出されている。

 今回の衝突事故で亡くなったオハイオ州カントン在住でITコンサル会社の経営者、ジョシュア・ブラウン氏(40)もそうした一人。オートパイロットでの運転映像をユーチューブに多数アップしていたことで知られていた。中でも、ハイウエーでのオートパイロット運転中に、左側のレーンから突然前に割り込んできた小型トラックをモデルSが機敏によけた映像は自慢の一品(下記の映像参照)。こうしたことから、「オートパイロットは事故防止に役立つ」と高い信頼を寄せていた。ただし、今回の事故ではブラウン氏が運転中に映画「ハリポッター」のDVDを鑑賞していたのではないかとも報じられている。

【亡くなったジョシュア・ブラウンさんが4月に投稿したオートパイロット運転の映像】
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藤元正
藤元正 Fujimoto Tadashi
自動運転車の時代がやってくることは間違いないが、それまでに今回と同じような事故が起こらない保証はない。新薬開発でも小規模の臨床試験では問題なかったのに、フェーズが進んで対象者が多くなった途端、それまで思いもかけなかったような条件が重なって重篤な副作用が出てくる場合がある。シリコンバレー企業は走りながら現実に合わせて商品やサービスを修正していくのが真骨頂。多くの人にベータ版を使ってもらって、そのビッグデータを次の開発に生かすやり方が根付いている。とはいえ、自動運転はこと人の命が関わる技術開発だけに、これまで以上の慎重さも必要だろう。

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