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低価格PCの戦闘機AI、空中戦シミュレーションでベテラン空軍パイロットを撃破

脳をまねた遺伝的アルゴリズムで、飛行中に俊敏な判断
低価格PCの戦闘機AI、空中戦シミュレーションでベテラン空軍パイロットを撃破

AI戦闘機相手にフライトシミュレーターで空中戦を戦うジーン・リー大佐(UCマガジンから)

 わずか500ドル程度のパソコン入門機で動く人工知能(AI)の戦闘機プログラムが、米空軍(USAF)のベテランパイロット相手にフライトシミュレーターで空中戦を戦い、全勝した。このAIは、米シンシナティ大学に所属するコンピューター科学と航空宇宙の研究者らのチームが開発した「アルファ(ALPHA)」。英ラズベリーパイ財団が開発し、35ドルで販売されている小型ボードコンピューターの「ラズペリーパイ3(Raspberry Pi 3)」でも稼働するという。

 AIと対戦したのはUSAFのジーン・リー大佐(退役)。1980年代から30年以上にわたってシミュレーターのAIと対戦経験のある戦闘機パイロットだ。そのリー氏はシンシナティ大学発行の「UCマガジン」に対し、「アルファの認識力と反応の高さに驚いた。まるで私の意図を知っているかように、こちらの飛行中の変化やミサイル配備に瞬時に対応する」と述べるとともに、「アルファはこれまで見た中でもっとも攻撃的で、機敏に反応し、ダイナミックで、信頼度の高いAIだ」と高く評価している。

 同氏によれば、ここまで連続して人間のパイロットを負かしたAIは初めてという。さらに人間のパイロットだけでなく、USAFが持つほかの戦闘機シミュレーションプログラムの性能も上回っているとされる。

 アルファのアルゴリズムは、米空軍研究所がスポンサーとなり、シンシナティ大学コンピューター科学博士課程修了のニック・アーネスト氏が立ち上げたベンチャーのサイバネティクス(Psibernetix, Inc.)と、同大で航空宇宙を研究するケリー・コーエン教授らが開発。遺伝的アルゴリズム(GA)といわれる手法を使って言語ベースのプログラムで開発され、人間の脳の働きをまねながら、飛行中に瞬時の判断が行えるという。

 今後は訓練を積んだほかのパイロットに対してもテストを重ねながら、アルファの性能を向上させていく方針。開発者の一人、コーエン教授は同誌に「アルファはチームメートとして極めた扱いやすいAIといえる。飛行小隊のほかの機に対し状況に応じた戦術的なアドバイスを提供するだけでなく、人間の同僚に与えられた任務を適切なやり方で実行できるよう連続的な決断が下せるようになるかもしれない」と将来の発展に期待している。
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藤元正
藤元正 Fujimoto Tadashi
AI戦闘機といえば、神林長平氏によるSF小説「戦闘妖精・雪風」が好みですが、こちらはあくまでフィクション。現実問題として、AIで自律的に判断しながら敵を攻撃するロボット兵器の脅威が叫ばれる中、大量殺人マシンの開発にAIのテクノロジーを使ってほしくはありません。とはいえ、コンピューターやロケットをはじめ、先進テクノロジーが軍事的要請を背景に登場したというのも事実なのですが。

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