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経団連初の女性役員が語るダイバーシティ経営。「輝け」よりも数字で勝負

BTジャパン社長の吉田晴乃さん。スポーツ感覚でサクサクと
経団連初の女性役員が語るダイバーシティ経営。「輝け」よりも数字で勝負

吉田晴乃さん

 BTジャパン社長の吉田晴乃さん。グローバル企業でキャリアを重ね、2015年には経団連初の女性役員に就任したことでも知られる。そんな吉田さんの目に、ダイバーシティ経営をめぐる日本の実情はどう映るのか―。安倍晋三政権が掲げる女性活躍推進についての思いも聞いた。

 ―ダイバーシティ経営をめぐる日本の現状。グローバル企業で活躍されてきたご自身の目にどう映りますか。
 「ここ数年の取り組み機運の高まりは、来るべき時代がようやく到来したと感じる。日本にとっては、少子高齢化や市場の縮小といった大きなチャレンジの中、第4次産業革命というデジタル社会の到来が女性の活躍を広げると思う」
 
 「ダイバーシティマネジメントとは、多様な環境下にある社員が直面する事情にかかわらず、いかに生産性を引き出すかという経営戦略である。第4次産業革命が象徴する技術革新は時間と距離の概念をなくし、できる時に自らの価値を発揮する新たな働き方を可能にする」

 「日本がそのポテンシャルを生かしているかというと、まだ途上だが、ITのリテラシーの高い日本ゆえ、進むべき方向が定まれば一斉に動きだすだろう。皆が能力を発揮できる『ソサエティー5・0』時代の到来」

 ―機運としてだけでなく実効性ある取り組みにする上で、どんな視点が必要ですか。
 「ダイバーシティ経営がビジネスに好影響を与える事実を『実感』ではなく『数字』をもって示すことに尽きる。ビジネスもスポーツと同じ、業績で判断される勝ち負けの世界だからこそ皆がフェアに活躍できる」

 「人種や国籍、さまざまな選手が同じルールの下で競い合うのと同様、正当な評価の仕組みを伴っていることが大前提となる。だからこそ、グローバル先進国と同じレベルの労働環境づくり、長時間労働や託児所問題の是正は国家の急務である」

 「170カ国以上で事業展開するBT(ブリティッシュ・テレコム)グループにとっても、ダイバーシティ経営は永遠の課題。ジェンダー(社会的な性差)の問題もあれば民族の問題もある。だからこそ、個人のバイアスがかからないフェアな評価システムでの運用が重要。成果と報酬が連動するシンプルルールが10万人のモチベーションを高め、すごい生産性を引き出します」

 ―客観的な数字で物事を捉えるべきだとの指摘は、政府が掲げる女性活躍推進にも言えることですね。
 「そうです。『活躍』や『輝く』といった曖昧な言葉で議論する時代はもう終わりにしたい。漠然と『さあ輝け』と背中を押されても女性たちは『一体どう輝けというのか』と戸惑うのが本音でしょう。

 「経済界での議論は個人の幸福論にとどまらない、ウーマノミクス、つまりウーマン+エコノミーであるべき。経営トップが明快なゴールを設定し、目の前にあるハードルを一つ一つ乗り越え自己実現することで、企業の成長に貢献。こういうスポーツ感覚でサクサクやっていきたいですね」
日刊工業新聞2016年7月1日
神崎明子
神崎明子 Kanzaki Akiko 東京支社 編集委員
「漠然と『さあ輝け』と背中を押されても女性たちは戸惑う」、「ゴールに向けてスポーツ感覚でサクサクと」ー。国内外の通信業界で長らく活躍されてきただけあって、ひとつひとつの発言に説得力があると同時に、華やかな容姿とは対照的に切れ味鋭い「男前」な言葉の数々も印象的でした。多様性とは最も遠いところにあるかにみえる日本の「財界」に、吉田さんのような新風が吹き込むことでもたらされる変化にも注目です。

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