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「KAIZEN」の精神を持つ日本、デジタルトランスフォーメーションの可能性

"ものづくり" という言葉に逃げ込むなかれ、日本の製造業!
 デジタルトランスフォーメーション(DX)―。これからの経済や企業の戦略の中心的存在になるこの言葉が、かつてないほど多く語られるようになった。米ゼネラル・エレクトリック(GE)も、経営と事業の革新のためにデジタル技術を活用してきた。ハードウェアとソフトウェアとを組み合わせ新たな価値創出し、実際の経験と知見を詰め込んだのが、G産業向けソフトウェア・プラットフォーム「Predix」と、それを筆頭とするインダストリアル・インターネット関連ソリューションだ。

モノを売るのではなく、成果を売る時代へ


 そもそも製造業であったGEが、なぜ、インダストリアル・インターネットを謳いソフトウェア事業に乗り出すことになったのか。GEデジタルでインダストリアル・インターネット推進本部長の新野昭夫氏は「GE自身が、製造業はよいモノを作るだけでは勝ち残れない、という強い危機感をもっていたことが出発点。エネルギーや航空、医療など各事業の製品やサービスに付加価値をつけるために、かねてからGEはソフトウェア開発を行ってきた」と話す。

 製造業の“故障すれば駆けつけて修理する”タイプの古典的対応を、長期かつ包括的なメンテナンス契約などで“顧客のダウンタイムとコストを最小化する”ためのサービス事業へと進化させた。

 さらに近年は、データ解析によって故障予知や生産性向上を図るなど“顧客のアウトカム(成果)を最大化する”ためのサービス提供を始めている。


サービス事業による収益は現時点でインダストリアル分野全体の70%以上
今後、顧客のアウトカム向上により大きな貢献を果たすモデルへ
(図:GEジャパン)
 「モノのインターネット化は抗えない“時代の趨勢”でもあり、産業分野の企業も時代に合わせて変貌する必要がある。あらゆる機器がネットワークに繋がるとなると、ハードウェアは単なる箱になりかねない」と新野氏。

 データやそこから得られる知見を組み合わせることで、ハードウェアをさらに価値あるものに昇華させるという考えだ。よく、ドイツのインダストリー4.0と米国のインダストリアル・インターネットが比較されるが、モノとモノとを繋いでデータから新たな知見を得て、社会のあらゆる領域で生産性を上げていこう、という点は同じ。

製造業のGEがデジタルを手掛けることの意義


 「Predixは、自らインダストリー事業を幅広く行ってきたGEが必要としたものを盛り込んで設計している。例えば、モノを作ったり、設備を運転させたり、サービスを売るといったビジネスプロセスのボトルネックを解決するために必要なデータ解析に最適なシステム環境。さらに、機器のセンサーが収集するデータはコンシューマーの世界のものとは全く違って多種多様で、かつノイズや欠落などが当たり前の扱いにくいもの。また、故障予知や自動制御にはリアルタイムな解析が要求される事もあります。Predixは、インダストリーの世界のデータを高速処理できる設計を施していることも特徴」と新野氏。

 クラウドベースでどんな企業でも利用できるようにしたPredixは単に産業用OSであるだけでなくPaaS(Platform as a Service)でもあり、すでに世界で約11,000人の開発者の協力を得て100種類を超えるアプリが開発されている。

 GE自身もこれらのアプリや、その要素となるマイクロサービスを開発している。例えば回転体、高温下で稼働する部品といった機械装置の運転異常や故障のメカニズムを熟知しているので、どのデータから何が読み取れるかを知っている。そうした知見をマイクロサービスと呼ぶモジュールにして格納し蓄積、アプリ開発を非常に速く簡単に、かつ安価に進められる。

 コンシューマーの世界であれば、手に入れてすぐに満足が得られるのがソフトウェア。しかし、産業におけるソフトウェア活用となると、そうはいかない。

 「解決したいことは何なのか、得たいオポチュニティ(機会)は何なのかを明確にして戦略的に導入し、運用することが重要。お客様との会話を繰り返すうちに 『いや、本当の問題点は〇〇〇ではなくて、むしろ×××だ』 なんていうことがある」と新野氏。

パートナーとエコシステムを築き日本の産業を変革


 IoTやデータアナリティクスが注目される遙か以前から、日本は、製造業を中心に生産性向上に熱心に取り組んできた。新野氏は「その象徴がKAIZEN。インダストリアル・インターネットは、ただ導入すればよいというものでもない。ICT先進国である日本は、インダストリアル・インターネット活用のための環境が整っている。しかし、KAIZENの精神や志向、徹底してやりぬく日本人の気質こそ、IoTによる成果を最大化し競争力を高めるうえでの最大の武器になるはず」という。

 同時に重要なのが、OTセキュリティ。産業分野ではセキュリティという概念がない時代からの機器やシステムがいまだ現役で稼働しており、世界で200万以上ものコントロール・システムが、外部から丸見え状態にあると言われている。

 産業分野では、データ漏洩よりもハッキングやそれによるシステムクラッシュの方が、時に人命にも関わる甚大なダメージを引き起こす。産業用セキュリティの専門企業、WulrdtechもGE傘下に加わり、GEデジタルは、セキュリティに至るまでワンチームとして顧客サポートができる体制を整えている。

 今後、システムインテグレーターやISV、通信会社、技術パートナーやリセラーといった国内のパートナー基盤を拡大していく戦略だ。
八子知礼
八子知礼 Yako Tomonori INDUSTRIAL-X 代表
 ものづくりだけで補完できないところ、お客様の成果に繋がらないところを少しづつビジネスとして広げていったら、ビジネスモデルが変わり、サービス化し、アウトカムに貢献すると定義されるようなビジネスモデルになった。狙ってそうしたのか否かを追求するよりも、自らを「製造業であってデジタルなサービスを提供する企業ではない。手離れ良くしたい。」と考えてしまいがちな日本の製造業の発想・思考とは雲泥の隔たりがある。  「いいものを作って提供したいだけ」なのか、「顧客や世の中の困りごとを解決したい」のかの根本的なスタンスと欲求が違うのだ。どちらが必要な時代かはもはや自明。すべての製造業がそうではないが、"ものづくり" という言葉に逃げ込むなかれ、日本の製造業。

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