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なかなかユニーク、イタリアのテクノロジースタートアップ

宇宙ゴミ防止に竹の人工骨、道路で発電、ドローン操る脳インターフェースも
なかなかユニーク、イタリアのテクノロジースタートアップ

アルコールチェッカー「Floome」のプレゼンをする2045Tech

イタリアの産業というとファッションやワイン、食品、それに自動車などがまず頭に浮かぶが、実は包装機械や工作機械といった機械産業のレベルも高い。ではスタートアップはどうなのか。日本イタリア国交樹立150周年を記念して5月末に東京・六本木で開かれた「イタリアンイノベーションデイ」(駐日イタリア大使館主催)。来日したスタートアップ9社が、日本の投資家や企業関係者を前に、持ち前のテクノロジーやビジネスモデルをプレゼンした。業種も医療や宇宙、エネルギーなどさまざま。主だった企業を紹介しよう。

●脳波による会話ソフトで家族と会話
手などは一切使わず、頭にヘッドセットを着け、思考だけでドローンの飛行を操作−−。こうしたデモ映像を披露したのがリキッドウェブ(Liquidweb)だ。「ブレインコントロール」と名付けた脳コンピューターインターフェース(BCI)のソフトウエアを開発する。ヘッドセットに取り付けられたセンサーで脳波をモニターしながら、それを解析して物を動かすなど、思った通りの動作を実行させるのが目的だ。

一番のターゲットは、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、多発性硬化症(MS)、脊椎損傷などの難病で体を動かすことのできない人たち。ヘッドセットとともに、タブレットPCの画面で「イエス」「ノー」「わからない」といった選択肢を選び、表示できるソフトを使って、家族や知り合いと簡単な会話ができるようにした。欧州連合(EU)の基準を満たした製品に付けられるCEマークをBCI製品として始めて取得したもので、ロボットや人型ロボット、車いす、ホームオートメーションなどにも応用できるという。日本では販売パートナーを探している。


●竹の人工骨による再生医療
グリーンボーン(GreenBone Ortho)は医療関連の2014年創業のスタートアップだが、2010年にはその開発者がタイム誌に「世界のトップ50研究者」の30位に選ばれたほど。アジア産の竹(日本産ではない)を使った人工骨による再生医療に挑戦している。

なぜ竹に着目したのかというと、微小なナノサイズの構造を持ち生体親和性が非常に高いため。人工骨としてよく使われるチタンなどに比べ、細長い骨の代わりに使っても荷重に耐えられる利点もある。ただ、竹といってもそのままの形で使うのではない。化学処理を施し、最終的には竹の炭素を実際の骨と同じリン酸カルシウムに置き換えている。

「チタンは長期間使っているとトラブルが起きることがあるが、竹は非常にユニークな素材で、リスクも低い」とチーフサイエンティストのアナ・タンピエリさん。これまでにベンチャーキャピタルなどから300万ユーロを調達し、ウサギや羊で動物実験を行ってきたが、年内にシリーズAで500万ユーロの資金調達を行う予定。2017年第1四半期には人間を対象とした臨床研究に入る。


●脳の表面にぴったりのフレキシブル電極
こちらも医療関連だが、ミラノとベルリンに拠点を置くワイズ(Wise)は、脳につなぐフレキシブルなリード線電極を開発する。シリコーンゴムにプラチナのナノ粒子を混ぜたもので、非常に柔らかいことから脳の形状に沿って密着しやすい。外科手術中の脳の神経活動の記録や電気ショックなどに使う。これまでの硬い電極に比べて患者の脳へのダメージが少ない上、精度も高いという。このほかに脊髄用の電極も2018年の発売に向けて開発を進めている。

脳神経用は年内にCEマークを取得し、量産体制を整えながら2017年の発売予定。「世界の28億ドルのマーケットで、日本は欧州、米国に続き3番目に大きい市場」とCEOのルカ・ラヴァグナンさんは話し、日本での販売も視野に入れている。


●宇宙ゴミ防止に衛星を安全処理
宇宙開発が進む一方で、深刻な脅威となっているのが宇宙の軌道付近に打ち上げられたロケットや衛星の残骸である宇宙ゴミ(スペースデブリ)だ。2011年設立のDオービット(D-Orbit)によれば、こうした宇宙ゴミ関連の「市場」は年間3億8100万ドルに上るという。

同社は人工衛星や打ち上げロケットが役目を終えた後や、軌道投入失敗などの時に、その場所にとどまって宇宙ゴミにならないよう固体燃料の推進装置を使って移動、大気圏に再突入させて処理するためのシステムの研究開発を手がける。独立推進装置の「D3」、それに打ち上げた衛星を一時的に投入する静止トランスファー軌道から、最終的な静止地球軌道に安全に移動させるための推進装置「Dレイズ」などを開発中だ。

これまでに450万ドルの資金を集め、2012に主力エンジンの地上テスト、2013年には制御ユニットの軌道上での動作確認を行ったのに続き、2017年第2四半期にはD3を搭載した初の衛星「D-SAT」を打ち上げる予定。事業としては、欧州宇宙機関(ESA)といった宇宙機関や宇宙機メーカーと契約し、対価を受け取る。費用は大きさによって1基当たり10万ドルから50万ドル、さらには500万ドルなど幅があるという。

宇宙ゴミ回収というと、日本人がシンガポールに創業したアストロスケールと比較されるが、両者のビジネスモデルはかなり異なる。日本の産業革新機構が最大33億円の出資を決めたアストロスケールは、軌道上にすでに存在する宇宙ゴミの回収をビジネスの中心に据えるのに対し、Dオービットでは宇宙機に特殊な推進装置を初めから積み込む。ミッション終了後にこの推進装置で宇宙機が自ら大気圏に突入して燃え尽き、デブリが残らないようにするアイデア。つまりアストロスケールが宇宙の掃除サービスなら、こちらは自らゴミを出さない工夫といえる。

2月には欧州委員会の「ホライズン2020」研究開発プログラムで中小企業による機器開発の一環として、200万ユーロを支給されている。共同創業者兼副社長のレナト・パネシさんによれば、すでに衛星などを手がける三菱電機とは会合を持ったことがあるといい、都内にある大学発宇宙ベンチャーとも会う予定だと言っていた。


●クルマを減速、重みを使って外部に電力供給
アンダーグラウンドパワー(Underground Power)は、その名の通り道路埋め込み型の発電システムを提供する。ミラノ工科大学と共同開発した「リブラ(LYBRA)」で、合流路などのように自動車が一旦停止しなければならない場所に設置。タイヤを広げたようなゴムマットの上にクルマが来るとゴムがよじれてクルマの走行エネルギーを吸収し、時速10km分だけ減速する。そこで吸収したエネルギーを発電に使う。

ちなみに1日にクルマが1万台通行するような場所なら、家40軒分をまかなう年間10万キロワット時の電気を供給できるという。ゴムなので減ることは減るが、1日に8600台のクルマが通行する場所では2年間での磨耗量が0.2mmだったとしている。

グリッド(電力網)につなぐよりも、施設内で消費する電力供給に向くようだ。会長兼CEOのアンドレア・ピリシさんは、潜在的な提携相手として日本の大手電力会社の名前を口にする。だが、電力会社よりむしろ、電力ユーザーである高速道路会社などが向いているのではないか。


●スマホでアルコール度チェック/廃素材で鉄道枕木を長寿命に
このほか、2045テック(2045Tech)はスマートフォンアプリと簡単な検出器を組み合わせ、お酒を飲んでいないかアルコールレベルをかなり精密に測定する「フルーミィ(Floome)」を開発。違法でないレベルに下がるまで、あとどれくらいの時間待てばいいかまで知らせてくれ、日本の楽天市場でもすでに販売されている。デザイン・イタリアン・シューズの頭文字を社名にしたDISは職人による100%メード・イン・イタリーのオーダー靴を手ごろな価格でネットおよび提携店舗で販売。デザインの種類の豊富さも強みで、デザインの組み合わせは5000万通りにも上るという。

エンジラブ(Engilab)はアート関連のエンジニアリング企業。3Dプリンターやプロジェクションマッピングを使った「オフィシナ・クリエティヴァ(Officina KReativa)」プロジェクトを共同で展開する。長寿命の鉄道用枕木を開発するのがグリーンレール(Greenrail)。内部はコンクリートだが、外部をリサイクルプラスチックや廃タイヤ素材で覆い、走行時の振動や騒音を抑えるばかりでなく、枕木を50年以上に長寿命化し、メンテナンスの手間も減らせるという。122カ国で特許を取得し、2017年の発売予定だ。

以上、なかなかバラエティーに富んだ、ユニークなスタートアップが多かった。日本で提携相手や出資者が見つかるよう、健闘を祈りたい。
ニュースイッチオリジナル
藤元正
藤元正 Fujimoto Tadashi
プレゼン以外では、宇宙飛行士のパオロ・ネスポリ(Paolo Nespoli)さんの講演が面白かった。最初はスタートアップのイベントになんで宇宙飛行士が?と思ったが、宇宙飛行士の選考に何度も落ち、そのたびに後ろを振り返らず、前だけを見て挑戦を繰り返したというネスポリさんの頑張りにはいたく感服。起業家に通じるものがあると感じた。イタリアンイノベーションデイのリンクから講演の動画が見られます。

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