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科学産業で日本企業はどこまで戦えるのか?

島津、新興国に低価格の原子吸光分光光度計を投入
科学産業で日本企業はどこまで戦えるのか?

新興国向けに投入するミドルクラスの「AA-6800F」

 島津製作所は6月中に、東南アジアやインドなど新興国向けに原子吸光分光光度計(AA)の新製品を投入する。先進国ではICP―AES(誘導結合プラズマ発光分光分析装置)が元素分析で主に使われるが、環境意識の高まりなどで需要拡大が予想される新興国では、より低価格のAAが有利で成長が見込めると判断した。同社ではAAの世界シェアを現状の8%から、2019年度に15%に高める。

 新興国向けに投入するのはミドルクラスのAA「AA―6880F」で、アセチレンガスを使うフレーム機。価格は1万5000―2万ドル程度とし、価格競争力を高めた。オプションの電気加熱によるファーネス検出下限はカドミウム0・4ピコグラム(ピコは1兆分の1)。

 中国・蘇州工場で生産する。日本国内での販売はしない。同社全体では16年度に国内外で前期比200台増となる1300台のAAを販売する計画。

 AAは上水、排水や土壌中の元素分析、農産物・食品中の主要成分分析に用いられる。測定範囲はppb(10億分の1)―ppm(100万分の1)。

 他の元素分析装置と比較した場合、1日当たりの測定サンプルが2000と多く、ランニングコストも抑えられる。一度に5種類以上の元素を調べられるICP―AESなどに比べても、装置価格が3分の1以下と安く、操作も手軽だ。

 中国などでは環境や食品安全に関する意識が高まっている。上水や排水、土壌中の有害微量金属分析などに関心が高まる中、元素分析のために最初に導入する装置としてAAは適している。

日刊工業新聞2016年6月14日
尾本憲由
尾本憲由 Omoto Noriyoshi 大阪支社編集局経済部
見えないものを見えるようにするのが科学の基本。質量分析計やクロマトグラフなど分析機器で有名な島津製作所が得意とするのもそんな世界です。そう、あのノーベル賞を受賞した田中耕一さんのいる会社です。今回の製品も、素人には小難しい以外の何物でもない機械ですが、経済発展や生活の向上には必ず分析機器の活躍が欠かせません。中国や新興国では今後より高性能な分析機器がより多く必要とされるのは確実で、そこでも熾烈なシェア争いが戦われています。

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