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スマートコミュニティーを「絵に描いた餅」に終わらせないために

NEDO古川理事長に聞く。
スマートコミュニティーを「絵に描いた餅」に終わらせないために

古川氏

 スマートコミュニティー(次世代社会インフラ)が普及に向けて動きだした。温室効果ガス排出の実質ゼロを目指す「パリ協定」の採択があり、世界各地でスマートコミュニティーの活用が望まれている。国内ではこれに加え、電力システム改革、地方創生、水素社会が導入を後押しする。実証事業を主導した機関や自治体、企業に普及への展望を聞く。

 ―スマートコミュニティーは技術実証が最終段階に入りました。
 「NEDOの米国とスペインの実証事業が終わり、成果が出た。スペインでは約200台の電気自動車(EV)を市民に使ってもらった。情報端末の一つのようにEVを活用する『コネクテッドカー』の先駆けとなった。充電スタンドの配置を決める根拠となるデータも得られており、EVの普及に役立つ。スマートコミュニティーが『絵に描いた餅』ではなく、肌で実感できる時が来た。いよいよ動きだした」

 ―新しく6件の海外実証を始めました。狙いは。
 「国・地域でエネルギー事情が異なるので、いろいろなタイプのスマートコミュニティーを手がけて企業が経験を積んでいる。米カリフォルニア州の実証は、(大型蓄電池の)レドックスフロー電池で再生可能エネルギーが電力系統に引き起こす周波数、電圧、需要の変動を吸収する。現地でも注目度が高い」

 ―実証に参加した企業のビジネスへの効果は。
 「インフラは地元企業が強く、日本企業が単独で海外市場に参入しても門前払いされる。そこでNEDOが相手国と交渉し、実証を実現した。それに日本企業はシステム化が得意ではない。海外での経験はビジネスに生かせる」

 ―パリ協定の採択で一層の温暖化対策が迫られています。
 「エネルギーを効率利用し、再生可能エネルギーを組み合わせて使うためにスマートコミュニティーがある。日本企業が世界をけん引してほしい。また、日本は温室効果ガスを50年に80%削減する目標を掲げた。長期研究は企業にとってリスクでもあるが、NEDOは企業と一緒に取り組み、達成に貢献したい」

【記者の目・実証で需要生む】
 NEDOが停電時にエネルギーを自給自足できるマイクログリッドを実証した米国では、マイクログリッドの導入がブームとなっているという。実証によって現地に需要を生む効果もあるようだ。そうなると日本企業によるビジネスの獲得に期待がかかる。そろそろ受注での成果も増えてほしい。
(文=松木喬)

※6月15日ー17日まで東京ビッグサイトで「スマートコミュニティJapan 2016」が開催されます。
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日刊工業新聞2016年6月10日
永里善彦
永里善彦 Nagasato Yoshihiko
政府が唱える「ソサイエティ5.0」にはスマートコミュニティーの実現が必須である。エネルギーー問題と地球温暖化問題という両課題に対しては、そのソルーションとしてスマートコミュニティの実現に注力せざるを得ないからである。“それがいよいよ動きだした”との本記事は刺激的である。折しも、6月15~17日“スマートコミュニティJapan2016”が東京ビッグサイトで開催される。初日はNEDO古川理事長の挨拶に始まり、午後、「ニューメキシコ実証から得られた知見」と題し、スマートコミュニティにおける今後の課題や解決手段の一部を先取りしたニューメキシコ実証の狙いと成果についてNEDOから報告がある。その経験を企業としてはビジネスに生かしたい。筆者も海外出張前日ではあるが関心をもって傍聴する所存である。

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