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“草刈機まさおの父”が語る「これぞ、ザ・ネーミング」

包行キャニコム会長インタビュー「ものづくりは演歌だ!」
“草刈機まさおの父”が語る「これぞ、ザ・ネーミング」

乗用草刈り機「家族(うち)のまさお」と包行氏

 「ものづくりは演歌だ!」を掲げる農機メーカーのキャニコム(福岡県うきは市)。その製品名は「草刈機まさお」「三輪駆動静香」「男前刈清(おとこまえがりきよし)」など他社を圧倒するほどのユニークさ。その生みの親である同社会長・包行(かねゆき)均氏が自著『これぞ、ザ・ネーミング〜。』(日刊工業新聞社刊)について語った。

 ―ネーミングをテーマにした理由は。
 「経営者にネーミングがいかに重要かを伝えたかった。多くの経営者はネーミングに対する意識が薄く、製品の名前を自分で付けることも少ない。これからのモノづくりでは差別化できる余地はますます少なくなる。また機能や品質、価格の競争が飽きられている面がある。そこで面白いネーミングが受け入れられる。しかし突拍子もない名前を面白がるだけで付けていたら、お客さまはすぐに飽きるだろう」

かっこいいという優越感が重要


 ―ネーミングを一般向け製品を持つメーカーだけの行為ではなく、業種を問わないものとして捉えています。
 「名前は何にでも付けられる。大事なのは、そこで価値を見つけたり生み出したりすること。組織の名前で社員を動かすこともできる。当社の『世界初商品開発本部』はその一例。目標を明確にすることでもある」

 「部品メーカーがネーミングにこだわることはめったにないだろう。しかしブランド化を考えないまま、この先もやっていけるだろうか。どんな製品であっても特徴ある名前を付けてブランド化するくらいの気持ちを持つべきだ」

 ―デザインにも力を入れ、DNB(デザイン、ネーミング、ブランド)戦略としているのはなぜですか。
 「DNBは三つのテーマを単に並べたものではなく一体のもの。農業機械は仕事ができればデザインなんか関係ないと思われてきた。しかしあるとき『農家をばかにしているのか』と若手農家から怒られたことがある。そして『かっこいいもの作ってくれ』と頼まれた。そこで乗用草刈り機『まさお』のデザインには相当お金をかけた。社内はその分安くした方がいいという意見がほとんどだった。しかしユーザーには隣の草刈り機よりもかっこいいという優越感が思った以上に重要だった。若者が農業に来ないのはメーカーの責任もあるのではないか」

ニーズは誰でも考える。その先のウォンツを


 ―ユーザーの声を重視しています。
 「お客さまにはニーズとウォンツがあり、ニーズは安さなど誰でも考えること。その先に楽しみたいといったウォンツがある。それを考えられるかどうか。ただ聞いて回ってもそれなりのニーズしか聞けないだろう。あの会社ならできるかもしれないと思われなければお客さんは言わない。キャニコムが来たから難題をふっかけてやろうと思われればしめたもの。言いたいことを聞けないのはその環境を自らつくってしまっているからだ」

 ―読者からいろいろな感想を聞くそうですね。
 「言いたいことが言えて、すかっとするだろうなとか社員との信頼関係をどのように築くのかと聞かれることが多い。10年前に読みたかったと言われることもある。その中で意外だったのは泣いたという人がいたこと。その人は経営者で、本に書いてあることが自分はできなかったと悔やみ、情けないと言っていた。表紙に『楽しい』『笑える』『遊べる』『儲(もう)かる』を掲げているが『泣ける』も加えておけばよかったかな」
(文=西部・関広樹)

◇包行均(かねゆき・ひとし)氏 キャニコム会長
【略歴】72年(昭47)第一経済大(現日本経済大)経卒。73年筑水農機(現キャニコム)入社、営業本部に配属。営業担当として全国の農家を訪ねる。80年常務、87年専務、91年社長、12年会長。最近は講演依頼に応えて全国を回っている。福岡県出身、67歳。
日刊工業新聞2016年6月6日books面連載「著者登場」
三苫能徳
三苫能徳 Mitoma Takanori 西部支社 記者
「キャニコムが来たから難題をふっかけてやろうと思われればしめたもの」 同社は顧客の“ぼやき”から商品化することも有名ですが、無理難題を言われるということは顧客の信頼の裏返しでもありますよね。なお、今年の新機種は「真田丸」がらみのネーミングでくるのではと予想。

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