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尼崎から始まった三菱電機のスマートグリッド。電力自由化でようやく光

新電力の“地産地消”に合致
尼崎から始まった三菱電機のスマートグリッド。電力自由化でようやく光

スマートグリッドの開発が行われた尼崎市の工場

 2011年、三菱電機は兵庫県尼崎市の製作所に出力4000キロワット分の太陽光発電パネルを取り付けた。今、メガソーラー(大規模太陽光発電所)は珍しくないが、当時は関西最大級。敷地内に電線を張り巡らせ、太陽光発電パネルから大量の電力が流れ込む電力網を作ってスマートグリッド(次世代電力網)の研究を始めた。

 工場を実験場とした成果は、再生可能エネルギー導入を支える技術として次々と実用化された。蓄電池の充電と放電の切り替えで再生エネの発電の変動を吸収するスマートグリッドを壱岐(長崎県)、対馬(同)、隠岐諸島(島根県)の三つの離島に導入した。九州電力には世界最大の出力5万キロワットの蓄電池システムも納入した。

 三菱電スマートコミュニティプロジェクトグループの鈴木浪平主管技師長は「種類の違う蓄電池の特性を把握して、制御技術を習得した。社内実証を積み重ねた上での実績だ」と手応えを語る。

 11年には神奈川県鎌倉市に実証用の「大船スマートハウス」を建設し、家庭用エネルギー管理システム(HEMS)による家電の省エネルギー制御を開始。経済産業省のけいはんな地区(京都府精華町)での実証事業にも参画し、実践の中でも磨きをかけた。

 豊富な経験を積み、業界で最も多い17製品とつながるHEMSを製品化。電力会社、太陽光、電気自動車(EV)のそれぞれの電力を使い分けるパワーコンディショナー(電力調整装置)も、業界に先駆けて発売した。

 課題は地域への展開だ。スマートグリッドなら電力会社、HEMSなら住宅メーカーやデベロッパーが売り先となる。地域はこれまでの顧客層と違い、機器を売るビジネス形態とも異なる。

 模索していたが、答えが見え始めた。構想段階から参画していた士幌町農業協同組合(JA士幌町、北海道士幌町)のスマートコミュニティー事業が4月、事業化した。

 JAが立ち上げた新電力が地元のバイオマス発電所から調達した電力を、地域で販売する地産地消型の事業を展開する。三菱電は新電力の業務を支えるシステムを提供する予定だ。

 秋田県鹿角市でも、市主導の電力事業の計画に参加。いずれも三菱電は前面に出ず、地域の支援に徹する。スマートグリッドやHEMSを大々的に導入する派手さはないが、地域側にはノウハウが不足しており、三菱電の出番がある。

 「再生エネの電源があり、意欲のある事業主体がいる地域なら事業が長続きする」(鈴木主管技師長)と、着実なスマートコミュニティーの導入と普及を目指す。

※6月15日ー17日まで東京ビッグサイトで「スマートコミュニティJapan 2016」が開催されます。
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日刊工業新聞2016年6月3日
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
尼崎のスマートグリッドを見学させていただいたことがありますが、製作所内の建物という建物の屋根、壁にびっしりと太陽光パネルがあり、工場内に不釣り合いな電柱が何本も立っていました。大規模な社内実証が、「見せる」ためだけではなく、ちゃんとビジネスにつながっています。記事に書き込めませんでしたら、尼崎の塚口駅前の開発で生まれる街全体のエネルギーマネジメントシステムも、三菱電機が手がけました。

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