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「日本再興戦略2016」政策と潜在成長率向上の相関は?

総花的で軸が見えないという批判にどう応えていくか
 政府は2日、新成長戦略「日本再興戦略2016」を閣議決定した。世界経済が「大きなリスクに直面している」(安倍晋三首相)中、依然“貯蓄志向”の企業経営者のマインドを変革し、350兆円を超える膨大な内部留保を設備投資やM&A(合併・買収)、技術革新、賃金に振り向け、産業の新陳代謝を図られるか。実効性のある経済対策や踏み込んだ規制改革、リスクマネー供給拡大などをからめて民間投資意欲を引き出すべく、政権の本気度が問われる。

 「現下のゼロ金利環境を最大限に生かし、未来を見据えた民間投資を大胆に喚起する」。1日の会見で安倍首相は力を込めた。これは法人税率引き下げやインセンティブなど、相次ぐ政策誘導の手を打ってきたが、これまでの政策が不十分だったとも言い換えられる。

 日本は世界に先駆けて人口減少社会に突入し、需給両面で課題に直面している。成長戦略の目玉はIoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)など第4次産業革命と呼ばれる技術革新で社会システムや産業構造、就業構造を一変し、日本の持続成長を実現することだ。

 将来像や中期目標から逆算して具体的改革のロードマップを策定したことは実効性の意味では前進だ。ただ、内需腰折れ懸念を背景に、消費増税の先送りを決断した以上、規制改革などを可能な限り前倒し、企業の攻めの投資を促しながら産業構造転換を急ピッチで進めるべきだろう。

「一億活躍プラン」成長と分配の好循環を


 政府は2日、働き方改革と生産性の向上に取り組むことを柱とした「ニッポン一億総活躍プラン」を閣議決定した。非正規雇用労働者の待遇改善、最低賃金の引き上げ、高齢者雇用の促進、子育てや介護支援の充実といった政策を通じ、“成長と分配の好循環”を目指す。

 同プランは「2025年度までに希望出生率1・8を達成」「17年度末までに50万人分の保育受け皿整備」「25年度までに介護離職ゼロ達成」「20年代初頭までに介護施設50万人分整備」「18年度までに『同一労働同一賃金』実現の指針策定」―などが柱。

 政府の一億総活躍社会に関する国民会議の案からの変更点として、全産業の男女労働者間の賃金差についても言及した。女性活躍推進法や同一労働同一賃金に向けた取り組みを進める中で、全体として差を縮めていくとした。長時間労働の是正としてテレワーク(在宅勤務)の推進も盛り込んだ。

 有利子奨学金については、固定金利方式、金利見直し方式ともに、現在の低金利の恩恵が行き渡るようにするとした。金利見直し方式の場合、現在の金利水準に照らせば、ほぼ無利子となるような仕組みを検討する。

 介護人材の処遇については、17年度から月額平均で1万円相当の改善を行う。あわせて介護ロボットの利用促進や情報通信技術(ICT)などの活用を通じて生産性の向上を図る。

 保育士や介護士の処遇改善の財源について、同日会見した加藤勝信一億総活躍担当相は、「アベノミクスの成果を活用していく」と税収の上振れ分を充てる考えを示したが、恒久的な財源については言及しなかった。

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日刊工業新聞2016年6月3日
安東泰志
安東泰志 Ando Yasushi ニューホライズンキャピタル 会長
これまでの3つの成長戦略だけでKPIが136項目もあり、しかも、達成したと政府が言っているものの中にも、景気循環による一時的要因の可能性が否定できないものがある。これまでの成長戦略は2014年の改定でコーポレートガバナンスの強化や産業の新陳代謝を入れた以外は総花的で、サプライサイドの構造改革で生産性向上を図り、潜在成長率を上げるという軸が見えない。政策と潜在成長率向上の相関をよく分析して、メリハリをつけて欲しい。

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