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トヨタの総力戦、新設計改革「TNGA」とは?

サプライヤー連携、競争力ある工場へ
トヨタの総力戦、新設計改革「TNGA」とは?

TNGAプラットフォーム

 2015年後半、トヨタ自動車が全社を挙げて取り組むクルマの新たな設計改革「トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー(TNGA=用語参照)」の第1号として、ハイブリッド車(HV)「プリウス」の次期モデルが発売される。TNGAは部品の共通化やモジュール化を進めながら生産効率と基本性能を高める手法。生産改革との一体活動でもある。トヨタだけでなく、関連サプライヤーも含めた総力戦で効果を最大限に引き出し、競争力強化につなげる。(名古屋・伊藤研二、同今村博之)
 
 【投資額40%低減】
 トヨタの堤工場(愛知県豊田市)。ここに新しい塗装ラインが導入された。ライン長は従来比20%減の149メートル、高さは同35%減の6・5メートルと大きく様変わり。投資額は同40%低減した。
 トヨタは3年間の工場新設凍結期間を設け「競争力のある工場」づくりに着手した。新塗装ラインは、その成果の一つだ。「シンプル」「スリム」、そして生産変動に追随できる「フレキシブル」というキーワードのもと、あらゆる工程を見直した。

 ボディー溶接ではレーザー溶接技術「レーザー・スクリュー・ウエルディング」(LSW)を開発。スポット溶接よりスピードが2倍以上速く工程も短縮できる。先行して高級車「レクサス」向けを中心に採用を広げてきた。さらに、1台のLSWロボットで鉄とアルミニウムの両方に対応する技術も開発中だ。
 トヨタはこれまで鉄はスポット溶接、アルミは摩擦撹拌(かくはん)接合を選択してきた。しかし、その場合はそれぞれの設備を設置する必要がある。もし1台で両方の素材に対応できれば、投資もスペースも半減できるというわけだ。
 ただ、鉄と同じ条件で溶接してもアルミは割れてしまう。適切な温度コントロールなどを模索し、割れを抑制できるめどがついてきた。

 こうした生産改革の成果を結集すると、工場の初期投資は08年比40%低減できる。TNGA適用車種はプリウスを皮切りに一気に広げる。新型車投入により設備投資は膨らむが、新コンセプトの工場とラインの展開により、総投資額は08年のリーマン・ショック前を超えない見通しだ。これらの成果があったからこそ、トヨタは工場新設凍結期間を解除し、中国とメキシコに新工場建設を決めた。

 【理解も進む】
 TNGAはサプライヤーも巻き込んだ壮大な設計改革だ。新たな手法のため、当初は戸惑う取引先も多かった。しかし、トヨタは地道にTNGAの取り組みを説明し、サプライヤーに理解を求めた。部品の共通化が進めば、大規模リコールに発展する恐れも大きくなるため責任は重大だ。

 トヨタの1次サプライヤーで構成している協豊会(愛知県豊田市)の信元久隆会長(曙ブレーキ工業社長)は「13年にTNGAの概念が発表された時は、特に小さな会社はトヨタとの関係が切れてしまうのではないかという心配もあった」と振り返る。しかし「14年はは実際にTNGAを展開している会社での勉強会を開くなどしており、サプライヤーの理解も進んできた」(信元会長)と手応えを感じている。

 TNGAを適用した車は現時点では市場投入されていないため、具体的なTNGA対応部品はまだ量産されていない。しかしサプライヤー各社の開発は進んでいる。部品そのものの性能向上はもちろん、生産ラインの改革にも着手して事業拡大に備える。

 【4種類に統一】
 フタバ産業は排気部品のマフラーでTNGAへの対応を急いでいる。マフラーには「断面」と呼ぶ本体形状を決める構成部品があるが、フタバはトヨタ向けにこの断面を従来の16種類から4種類に統一する。三島康博社長は「断面を4種類にしても車種によって排気量が違うので長さを変えたり、デバイスであるバルブをうまくつけたりして性能を満たす」と説明する。

 マフラーを構成するパイプの径なども標準化を進める。標準化した断面やパイプを“かけ算”の要領で組み合わせることで、多くのマフラーの種類をカバーできる仕様にする。
 こうした工夫を盛り込んで開発したのは超薄型のマフラー。トランクルームの容量を確保しながら、車両の低床化につながる製品に仕上げた。生産現場でもTNGAに合わせて、マフラーの各工程を連結した革新ラインを確立し、従来ラインに比べて設置スペースを25%低減する。

 トヨタが主導し、競合関係にあるサプライヤーが協力して成果を上げた例もある。シフトレバーを手がける東海理化、津田工業(愛知県刈谷市)、万能工業(同安城市)の3社は、TNGAを推進するため共同で自動変速機(AT)シフトレバーを開発した。トヨタの調達部や生産技術部、技術部と連携し、設計とモノづくりで共同作業を進めた。

 開発したシフトレバーは、シンプルで、つくりやすい製品構造、コンパクトな組み付け工程を実現。品質や性能、コストなどで競争力の高いATシフトレバーが完成した。牛山雄造東海理化社長は「(共同開発製品は)原価低減につながる。うまくいけば車種をまたいで使える」と自信をのぞかせる。
 
 【用語】トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー(TNGA)=トヨタ自動車が2015年後半に発売する車種から導入する新たな設計改革手法。これまで車種ごとに開発していた部品を共通化・モジュール化し、クルマの基本性能や商品力を向上しながらコスト低減につなげる。プラットフォーム(車台)やユニットなどに導入する一方、ボディーやアルミホイールなどは対象外にして車種ごとに個性を持たせる。20年頃までに世界販売台数の半数に導入する。同様の設計手法は独フォルクスワーゲン(VW)が「MQB」、日産自動車が「CMF」として展開している。
日刊工業新聞2015年05月05日 自動車面
昆梓紗
昆梓紗 Kon Azusa デジタルメディア局DX編集部 記者
トヨタやそのサプライヤーの現場に脈々と受け継がれる「トヨタ生産方式」のDNA。これがあったからこそ、TNGAも着実に推進されつつあるのかもしれません。

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