世界は「リーマンショック級」の危機なのか

伊勢志摩サミット閉幕、消費増税延期表明への地ならしか

伊勢志摩サミット

 【伊勢】伊勢志摩サミット(主要国首脳会議)は27日、「G7伊勢志摩首脳宣言」を採択し、閉幕した。世界経済を最大のテーマに議論を行い、「成長は引き続き緩やかでばらつきがあり、前回の会合以降、世界経済の見通しに対する下方リスクが高まっている。近年、世界的な貿易のパフォーマンスは期待外れの状況」などの文言を盛り込んだ。その上で「新たな危機に陥ることを回避する」ため、「適時にすべての政策対応を行う」などとした。  安倍晋三首相は記者会見で「ここでもし対応を誤れば、世界経済が通常の景気循環を超えて危機に陥る大きなリスクに直面している」と述べた。さらに「アベノミクスを世界に展開していく」と宣言した。  首脳宣言の採択を受けて、野村証券は27日付のアナリストリポートで「消費増税延期表明への地ならしと延期について、G7諸国からの暗黙の了承取り付けを前提とした動きと推測される」とした。また「日本経済の現況が(2008年の)リーマン・ショック級の悪化を示しているとは判断していない」と分析した。 日刊工業新聞2016年5月10日  日本総合研究所の寺島実郎理事長に聞く  ―今の世界経済をどう捉えていますか。  「2008年のリーマン・ショック後に米国は量的金融緩和と実質的なゼロ金利政策を取った。欧州は14年にマイナス金利に踏み切り、日本も異次元の金融緩和を実施した。今や市場には世界の国内総生産(GDP)の4倍以上の資金があふれ、マネーゲームが制御できないほど肥大化している。実体経済の政策を考える前に、マネーゲームにどう対処するかを考えるべきだ」  ―肥大化はどんな問題を引き起こすでしょうか。  「政策金利が低い中、米エネルギー企業の社債などハイイールド債(高利回り債)に資金が流れた。こうした企業は原油が1バレル=100ドルを前提に経営計画を立てたため、油価が3分の1に下がると、債券も急落した。マネーゲームが破綻し、再び金融不安がちらつき始めた。リーマン・ショックを起こした人々はまだ懲りていない。マネーの肥大化で富める者はさらに富み、貧富の格差が深刻だ。(資産家の税逃れを暴露した)『パナマ文書』の流出には、こうした問題への不満がある」  ―日本では17年に予定する10%への消費増税を延期するかが焦点です。  「まず増税の前に、無駄な歳出の削減が先、と言いたい。その点を強調した上で、17年に増税できるかを考えると、今の経済の地合いでは難しい。00―15年に日本の家計支出は月2万9000円減った。年間では約35万円だ。給与がなかなか上がらないのが理由だ。支出が減っている中で消費税率を上げると、ますます消費が落ち込み、経済にはよくない」  ―サミットでの議論をどう予想しますか。  「恐らくテロ対策の協力で一致など、サミットは常識を上塗りした内容の声明を出して終わるだろう。重要なのは隠れた議題だ。例えば、ロシアを巡って各国の思惑は異なる。日本は化石燃料を中東からの輸入に頼ってきたが、これを是正するため、資源大国のロシアと接近している。米国は日本の動きを対ロ制裁の抜け道になるとみており、おもしろくないと感じているだろう。欧州はロシアへの食料の輸出が減る中、アジアからロシアへの食料の輸出が増え、心穏やかではない。サミットを平板で見るのではなく、表には出てこない議題まで思いを至らせることが大切だ」 【記者の目・中ロ対応、問われる存在意義】  サミットの議題は、不在の国が問題解決のカギを握る場合が多い。シリアやウクライナ情勢はロシア、世界経済の再生には中国抜きでは語れない。しかし、寺島氏も指摘するように、中ロへの対応を巡っても、G7間では温度差がある。差異を乗り越えて効果的な協力策を発信できなければ、G7の存在意義が問われる。 (聞き手=大城麻木乃) 日刊工業新聞2016年5月17日  東洋大学教授・産業競争力会議議員の竹中平蔵氏に聞く  ―伊勢志摩サミット(主要国首脳会議)は、世界経済の減速をいかに緩和させるかが最大の課題です。  「主要7カ国(G7)は、需要サイドでは景気刺激の財政出動で協調し、供給サイドでは構造改革を推進すると確認する必要がある。先進諸国は投資機会が減っており、中でも構造改革が重要だ。日本は貯蓄と投資を均衡させる実質利子率がマイナスになっている。構造改革への取り組みが十分でなく、日本政府はもっと行動を起こすべきだ」  ―日本政府は需要サイドをテコ入れするため、緊急経済対策を視野に入れています。  「日本は需給ギャップが約8兆円あり、短期的には“カンフル剤”的な財政政策を講じる必要がある。中長期的には成長力を高める構造改革を進めないといけない」  ―G7が財政出動で協調しても、掛け声倒れに終わるのでは。  「欧州は難民・テロ問題、英国は欧州連合(EU)からの離脱、米国は大統領選と、それぞれに事情を抱える。だがG7の“友人”からの良い意味でのプレッシャーが、各国の国内世論をまとめることを期待したい」  ―安倍晋三首相は2017年度の消費増税延期を検討しています。  「消費増税しなければ『アベノミクス(安倍晋三政権の経済政策)』は成功する。経済再生を優先し、それに財政再建がついてくるというのが極めてオーソドックスな形だ。消費増税は将来的には容認できる。ただ、その税収は年金の財源ではなく、出産や子育て支援など若者への支出に充て、少子化に対応するべきだ」  ―日銀の金融政策をどうみますか。  「黒田東彦日銀総裁の金融政策は基本的に正しい。デフレ脱却に向けてインフレ期待を高める必要がある。マイナス金利制度の導入を含め、相当な金融緩和は実施していかないといけない」  ―世界経済の懸念の一つである中国の今後をどうみますか。  「今年の世界経済は、中国経済の減速が大きな波乱要因にはならない。中国には金融・財政政策の余地がある。ただ長期的には成長率は低下していく。17年に中国共産党指導者7人のうち5人が定年で入れ替わる。新しい顔ぶれに注目したい」 【記者の目・政権の本気度問われる】  竹中氏は、安倍政権が掲げる名目国内総生産(GDP)600兆円の20年頃の達成は実現可能とみる。そのためには、大胆な金融緩和の継続や十分な構造改革が条件となる。7月の参院選に続いて衆院解散も取りざたされる中、業界の既得権益に手をつけられるのか。構造改革をめぐる政権の本気度が問われる。 (聞き手=神崎正樹)

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