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中国でロボット導入が過熱、フォックスコンの1工場だけで6万人を置き換え

雇用機会を奪うとの見方も、新たなチャイナショックの引き金に? 
中国でロボット導入が過熱、フォックスコンの1工場だけで6万人を置き換え

中国ミデア・グループ(美的集団)が買収提案している独クカの産業用ロボット

 中国の1工場だけで6万人の従業員をロボットに置き換えた、という香港サウスチャイナ・モーニング・ポスト紙の報道が話題になっている。しかも、名指しされたこの工場はアップルのiPhone/iPadはじめ電子機器の受託生産で世界最大規模を誇る台湾・フォックスコンのもの。人件費の上昇から中国の製造業ではロボット導入の動きが過熱しているが、こうした傾向が続くことで、25日付の「リノさんのロボット社会論(15)」の記事でも指摘されたように、労働者がロボットに職を奪われ、失業率が上昇するとの見方が現実味を帯びてきている。

 フォックスコンは、シャープを買収した鴻海精密工業を中核とする企業グループ。サウスチャイナ・モーニング・ポストの報道内容は、フォックスコンの工場のある江蘇省昆山(クンシャン)市の広報部門幹部が明らかにしたもので、人件費削減を狙いにロボットを導入し、工場の11万人の従業員を5万人に減らしたという。

 昆山はエレクトロニクス産業の集積地。4800社の台湾企業が進出し、台湾企業が市のGDPの60%を占めるとされる。しかも2014年末時点で同市は約250万人の人口を抱え、その3分の2が出稼ぎ労働者。台湾資本のエレクトロニクス工場が雇用を作り出してきた格好だ。ただ、ピーク時の出荷台数が年間1億2000万台を誇ったノートパソコンが、需要の減少で5100万台に激減。それに代わってスマートフォンが昨年には2000万台に伸びてはいるが、人件費の上昇にも直面する。そのため同幹部によれば、市内のほかの企業でもロボットの大量導入に追随する動きが見られるという。

 中国国内の他の産業集積地でも同様の傾向で、広東省東莞市では2014年以降、505社が何千人単位の労働者の置き換えを狙って、これまでに42億元(約700億円)を産業用ロボットに投資しているという。

 一方で、急速なロボット化が中国の労働市場に悪影響を及ぼすとの見方もある。デロイトとオックスフォード大学による共同研究の報告書では、今後20年間で中国の35%の労働力が危機にさらされるとしている。

 今回の報道について、フォックスコンはBBCの取材に対し、工場での多くの製造関連の業務を自動化してきたことを認めたうえで、「長期にわたって雇用の喪失を意味するものではない」と明確に否定。それよりも、「労働者に頼っていた単純作業をロボットなどの新しい製造技術に置き換えると同時に、労働者を訓練することで、研究開発や工程管理、品質管理といった付加価値の高い仕事に従事させる」と反論している。
ニュースイッチオリジナル
藤元正
藤元正 Fujimoto Tadashi
ロボットの発達により、映画「ターミネーター」のように人間社会が危機に見舞われるとの悲観的な未来予測もあるが、それよりもロボットに仕事を奪われて失業するほうが現実的な脅威といえる。打開策として、サプライヤーを含めて自国でロボット産業を育成するなり、雇用の受け皿となるサービス産業や新産業の育成が求められるかもしれない。

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