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「ライスパワーエキス」を生み出したのは「自然に生かされれている」思想

勇心酒造常務・徳山孝仁氏に聞く
「ライスパワーエキス」を生み出したのは「自然に生かされれている」思想

ライスパワーエキスを生かした化粧品が並ぶ

**「コメ」の良さ生かし新商品、化粧品・入浴剤などでヒット
 勇心酒造(香川県綾川町、徳山孝社長、087・876・4111)は1854年(安政元年)の創業。代々、香川県で酒造業を営んできた。現社長で5代目の徳山孝氏が「コメ」の可能性に着目し、「コメ」の総合利用研究に乗りだし、化粧品や入浴剤、飲料などを開発し業容を拡大してきた。現社長の長男で経営全般を取り仕切る徳山孝仁常務に商品開発のきっかけなどを聞いた。

―勇心酒造の考え方の根底にある「生かされている」とは。

「西洋のように、人は自然と対立していると考えるのではなく、自然やさまざまな背景によって生かされているという東洋的な自然観を基本とした考え方だ。日本酒やみそ、しょうゆなど微生物の存在すらわからなかった先人たちの時代に、自然と心の対話をして醸造発酵技術を確立してきた歴史もその一端と考える」

―製品開発のきっかけは。

「1975年をピークに日本酒需要の低落が始まったが、その過程でコメの秘めた力と醸造発酵技術の可能性に注目し、研究を始めた。その後、開発したエキスを『ライスパワーエキス』と名付け、87年に初めて医薬部外品の新規有効成分として認可された入浴剤用エキスを出し、入浴剤を発売した。温浴効果が高いと大手製薬会社のOEM(相手先ブランドによる生産)に採用されたことが大きい」

―化粧品が大きな評判となりました。

「研究開発の段階で肌に効果があるとわかったが、最初から化粧品を開発するつもりはなく、肌を健康にするには何をしたらよいかを考えた。例えば、カサカサ肌の人の肌をどうしたら直せるかなどだ。大きな転機は、01年に『ライスパワーエキスNo.11』が、厚生労働省から医薬部外品の新規効能として『皮膚水分保持能の改善』を認可されたことだ」

「従来の保湿剤のように吸水物質を皮膚表面に付着させる方法と異なり、肌の深層部に浸透して細胞に働きかけ、細胞そのものを活性化させ、皮膚そのものを健全化する商品を開発した。大きなヒット商品になった」

―ライスパワーエキスは現在、何種類ですか。

「36種類を開発し、13種類を実用化している。ライスパワーエキスの効能を生かした化粧水や美容液、シャンプー、ボディーケア商品、胃や粘膜を健やかにする内服用などを販売している。天然素材のコメを原料に、独自の発酵技術によりつくられるエキスに共通する特徴は、身体の持つ機能そのものを健全化するため、副作用がなく安全性が高いことだ」

地道な研究開発で業態転換


 徳山孝社長は元国税庁醸造試験場に勤務。会社を継いだ当時は、日本酒需要が低迷し研究開発費にも苦慮していたという。しかし、初志貫徹。コメの可能性を追求し、今では化粧品が同社の柱で、OEM生産のみならず自社ブランドとしても販売する。地道な研究開発が業態転換につながった。15年6月に新本社ビルを本社敷地内に建設。新しい研究機材なども導入した。同社の研究に一層邁進(まいしん)する姿に、今後も注目していきたい。
(文、聞き手=高松支局長・斉藤伸介)
日刊工業新聞2016年5月19日 モノづくり面
昆梓紗
昆梓紗 Kon Azusa デジタルメディア局DX編集部 記者
早くから、醸造技術を日本酒製造以外の製品開発に横展開しようという考えのもと、研究開発を進めてきた同社。今では事業の柱になっています。

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