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空調設備工事、オリンピックまでは堅調も人手不足で受注計画は保守的

工事の遅れは損失リスクに
 空調設備工事大手6社の2017年3月期連結業績予想は、5社が受注高で前期比減を見通す。ビル空調では都心再開発などの大型案件が豊富なほか、20年の東京五輪に向けた需要など業界環境は明るいが、各社は収益性を重視。好採算案件の選別に軸足を移しており、前期と同様に慎重な姿勢は崩していない。設計者や現場技術者など人手不足にも拍車がかかり、量より質を重視する傾向が一層高まっている。

 大気社は受注高見通しを前期比9・7%減の2002億円に設定。国内の産業空調分野は引き続き堅調に推移するものの、海外主力市場であるタイの受注高が、同8・2%減の393億円と落ち込む見通し。高砂熱学工業は受注高を2630億円とし、前期と同水準で推移すると予想。民間設備投資の改善を想定するが、人的リソースの逼迫(ひっぱく)や、工事利益の確保が課題となる。

 海外展開の進む両社は円高の影響も出始めており、為替への感応が受注や利益に影響を及ぼしつつある。ただ円高基調で、国内回帰だった製造業が再び海外に軸足を置く可能性もあり、今期以降は海外受注の積み上げも期待できそう。

 三機工業や新日本空調は収益力の拡大に向けた動きを加速する。人工知能やIoT(モノのインターネット)など、先端技術を用いた新技術・新サービスの開発を推進。高収益事業の創出で、利益体質の改善を急ぐ。

海外は未開拓の市場を掘り起しへ


日刊工業新聞2016年3月7日


 空調設備工事大手の海外展開が新局面を迎えている。高砂熱学工業など各社は日系企業の進出に合わせ、東南アジアの主要国で日系向けのビジネスを進めてきた。それに加えて、現地企業への出資や、より成長が見込まれる国への拠点開設の動きが出てきた。非日系企業など未開拓の市場を掘り起こす狙いがある。

 高砂熱学工業は2015年12月、インドで製薬会社のクリーンルーム機器・内装材を製造するインテグレーテッドクリーンルームテクノロジーズ(Iクリーン)の普通株式26・12%を取得し、持ち分法適用関連会社化した。

 岡野史明常務執行役員国際事業本部副事業本部長は「海外10拠点のトップの意見を集約し、最も伸びる地域、分野と判断した」と理由を明かす。海外企業への出資は初めてだ。

 インドでは政府の産業支援策や人口増加を背景に、現地後発薬会社や欧米製薬会社の製造拠点設立が続く。高砂熱学もインドで13年に現地法人が営業を始めたが、日系企業が顧客で、製薬会社向けの仕事はほとんどしていなかった。

 一方、Iクリーンは02年の設立ながら、インドの製薬会社向けクリーンルーム機器でシェア1位を誇る。同社と組むことで、クリーンルームのEPC(設計・調達・建設)受注を狙う。

 インド以外での協業も狙う。Iクリーンは中東やアフリカでも実績があり、海外展開の意欲も強いという。中村正人国際事業本部国際経営管理部長は「当社が拠点を置くマレーシアなど東南アジアの案件を一緒にできれば」と期待する。

 新日本空調は月内にカンボジア支店を開設し、7月に営業を始める予定。同国は内戦の影響で東南アジアでも経済的に取り残されていたが、近年は急速に発展している。14年のミャンマー支店に続く5カ所目の海外拠点設立となる。同国に支店を持つ同業他社は珍しい。

 近隣のタイ、ベトナムには多くの競合が進出し、価格競争が激しくなっている。一方、新日空は両国に拠点を持たない。両国からさらにカンボジアに進出する日系製造業が増えると見込んで、拠点開設を決めた。20年度に年間30億円の売り上げを目指す。

 両社の動きは、空調設備工事会社の海外展開が、主要国での日系企業向けの限定的なものから非日系企業や未開拓市場に広がろうとしている表れだ。出資先や進出国の実態把握を通じて、新たな顧客を早期に獲得することが期待される。

※内容、肩書きは当時のもの
日刊工業新聞2016年5月18日
長塚崇寛
長塚崇寛 Nagatsuka Takahiro 編集局ニュースセンター デスク
「国内空調設備市場は、20年の東京五輪に伴う再開発需要などを追い風に堅調に推移する見通し。ただ、空調設備工事各社の受注計画は総じて保守的だ。それは建設業界で顕著になっている人手不足が背景にある。設計者や現場技術者といった人的リソースの不足で、受注を増やしてもきれない可能性もある。工事の遅れは損失リスクもはらむ。そこでやみくもに規模を追うよりも、好採算案件を厳選し収益性を高める方向にかじを切っている」

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