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《「地域点描」関東編》受注確保へ航空や医療などの成長分野へシフト

アベノミクスの過度な期待から自助努力へ
《「地域点描」関東編》受注確保へ航空や医療などの成長分野へシフト

受注先が広がるエイム

 関東では政権の経済政策「アベノミクス」の効果を実感する中小企業がある半面、恩恵を感じていない企業も数多く存在する。ともに感触は異なるものの、共通しているのは航空機や医療機器といった成長分野へのシフトだ。アベノミクスに対する一時期の過度な期待は鳴りを潜め、受注確保に向けた自助努力の姿勢が目立つ。

補助金が意欲喚起、単価減補う受注目指す


 エイム(東京都青梅市)の小山孝社長はアベノミクス効果を受けて「受注できる得意先企業が増えた」と評価する。円安を背景にレーザー溶接機などの輸出が伸び、国内も補助金を活用して購入する企業が増えている。

 マテリアル(東京都大田区)は機械加工などを手がける第3工場の稼働を3月に始めた。総投資額は約2億6000万円。これまで3年間で助成金などを活用して設備を導入してきた。細貝淳一社長は「今まで設備投資が中心だったが、今後は人材育成に力を入れる」としている。

 サーフ・エンジニアリング(神奈川県綾瀬市)の根本秀幸社長は「国が経済政策の中長期ビジョンを示し、マインド面で効果があった」とみる。自社に関係する部分では橋脚の点検を5年以内に実施するという方針を国が明確に示したことが大きかったという。

 三友製作所(茨城県常陸太田市)は医療用分析機器関連製品などを手がける。加藤木克也社長は「ものづくり補助金など助成制度が中小企業の投資意欲を喚起した」と評価。企業向けの補助金は経営を充実させる良い取り組みと再認識している。

 一方、アベノミクス効果を実感できない経営者も少なくない。ムラコシ精工(東京都小金井市)の村越雄介社長は「アベノミクスによって経済のコントロールが効いている」と評価する一方、大企業の好業績が中小企業に波及する”トリクルダウン“の「実感はない」という。


(航空機部品の量産に乗り出す菊地歯車)

 菊地歯車(栃木県足利市)は2015年11月を底に精密歯車の売り上げが回復傾向にある。6月には子会社を通じて航空機部品の量産を開始する。ただ、菊地義典社長は「アベノミクス効果かどうかは分からない」と首をかしげる。

 フルハートジャパン(東京都大田区)の國廣愛彦社長は「リーマン・ショック時に下がった単価が戻っていない」と危機感を示す。根本特殊化学(同杉並区)の根本郁芳会長は「親交のある経営者の間では(アベノミクスが)話題に上がることはほとんどない」と手厳しい。モールドテック(神奈川県藤沢市)の落合孝明社長は「従業員10人以下の中小零細企業にも行き届く政策を考えてほしい」と訴える。

 厳しい経営環境の中、国に頼らない姿勢をみせる中小企業も多い。町田ギヤー製作所(群馬県高崎市)の町田和紀社長は昨年夏に商談や問い合わせが「ピタリと止まった」と振り返る。顧客の発注が落ち込んだが、新規開拓で乗り切った。武井製作所(千葉県松戸市)は自動車や航空機の部品製造に力を入れる。武井哲郎社長は「売り上げの増減に関係なく設備投資はやらざるを得ない」と強調する。

 熊本地震で経済の停滞を懸念する向きもある。しかし「大きな方針に向かって失敗を恐れずに取り組むことが日本経済の下支えにつながる」(根本サーフ・エンジニアリング社長)といった前向きな声も出ている。

経済緩やかに回復。中小に行き届く政策充実求める


 大企業が集積し、アベノミクスの恩恵を受けやすい東京都を中心とした関東圏内の経済は緩やかに改善している。1都10県を管轄する関東経済産業局が4月に発表した管内の経済動向によると、鉱工業生産活動は一進一退で推移。ただ、百貨店・スーパー販売額が3カ月連続、コンビニ販売額は36カ月連続で前年同月を上回るなど個人消費が持ち直している。また雇用情勢も有効求人倍率が高い水準を維持し、南関東で完全失業率が6カ月連続で改善しているほか、公共工事、住宅着工も前年同月を上回っており、各指標のほとんどで改善傾向を示す。

 2月の管内鉱工業生産指数(2010年=100)は、前月比3・7%減の91・9と2カ月ぶりに低下した。石油・石炭製品、情報通信機械など5業種で上昇したものの、生産用機械、電気機械、輸送機械など13業種で低下したことが響いた。

 このうち、生産用機械は半導体製造装置や印刷機械、マシニングセンターなどの減少が影響して前月比12・5%減。「半導体製造装置は欧州向け、印刷機械ではアジア向けの受注が低下した」と関東経産局は分析する。これに対し、「アジア向けの通信網の拡大や置き換え需要に伴い、固定通信装置の受注が増えた」(関東経産局)ことで、情報通信機械は同1・6%増となった。

 一方、関東財務局がまとめた経済情勢報告(4月判断)によると、前回の1月判断と同様「弱い動きがみられるものの、緩やかに回復している」と総括判断した。項目別では「公共事業」が前回と比べ上方修正、「企業の景況感」は下方修正となったものの、「個人消費」「生産活動」「設備投資」など残る7項目は横ばいとなった。

《「地域点描」北海道・東北編》
日刊工業新聞2016年5月3日 中小企業・地域経済面
三苫能徳
三苫能徳 Mitoma Takanori 西部支社 記者
設備投資に対する補助事業「ものづくり補助金」は、中小製造業者からの評価は総じて高いという印象。リピーターがいる一方で、交付を受けても思う成果をあげられない企業も。“ばらまき”の補助金にならないためにも、結果に結びつける(コミットする?)支援の強化も必要では。

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