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VR市場沸騰中!端末が続々登場、ゲームだけでなく産業分野へも拡大なるか

VR市場沸騰中!端末が続々登場、ゲームだけでなく産業分野へも拡大なるか

ソニーが投入するVR端末「プレイステーションVR」

 仮想現実(VR)市場が活況だ。この半年でVR端末が続々と登場したほか、対応コンテンツも急速に充実してきた。ゲームやアニメなど娯楽分野を中心に普及しているほか、今後は産業向け分野での利用拡大も期待される。一方、どうVRの魅力を伝えるか、どう対応コンテンツを拡充していくかなど課題もある。“普及元年”を迎えたVRは、我々の生活に溶け込む存在へと成長できるか。

ヘッドマウンドディスプレー次々登場


 ズドン、ズドン―。目の前から足音が迫ってくる。頭を動かして見上げるとそこには口を開けた巨人が。「食べられる!」。思わず身をかがめてしまった。これは人気アニメ「進撃の巨人」のVRコンテンツ。こうした360度方向の映像体験や、まるでその世界に入ったような感覚を味わえるのがVRの魅力だ。

 VRコンテンツはヘッドマウンドディスプレー(HMD)で視聴する。VRに欠かせないこのHMDが充実してきた。韓国サムスン電子は2015年末に「ギアVR」を投入。さらに16年10月にはソニー・インタラクティブエンタテインメントが「プレイステーション(PS)VR」を発売する見通し。

 世界で約40社が端末を手がけているデータもあり、調査会社の米トラクティカはVRの端末・コンテンツ関連の市場規模は、20年までに218億ドル(約2兆3600億円)になると予測する。

 百花繚乱(りょうらん)の様相を呈するVR端末だが、大きくは三つに分類できる。一つ目は高機能モデル。ディスプレーを内蔵し、パソコンやゲーム機と接続して使う。PSVRなどが該当する。二つ目はスマートフォンに装着して使うタイプ。端末にはセンサー類のみ搭載されており、ディスプレー機能はスマホが担う。ギアVRなどが代表選手だ。そして三つ目は、厚紙などでできた簡易モデル。スマホとセットで使う点は二つ目と共通だが、センサー類は搭載していない。

 これら3種類のVR端末は、それぞれ別々の市場を狙う。高機能モデルは主にゲーム愛好者向けだ。高橋泰生ソニー・インタラクティブエンタテインメントグローバル商品企画部1課課長は、「PSVRでは圧倒的な没入感を実現できた。新しいゲーム体験を提供できる」とアピールする。

 「当社のスマホ『ギャラクシー』の魅力アップにつなげたい」と話すのは、サムスン電子ジャパン(東京都千代田区)の後藤友宣マーケティングコミュニケーションズグループマネジャー。同社のギアVRは現状で「ギャラクシーS6/S6エッジ」のみ対応する。ギャラクシーに「プラスアルファ」(後藤マネジャー)の価値を加えるアクセサリーとして訴求する。

 厚紙でできた簡易モデルは数百円程度からと低価格の製品が多い。凸版印刷は、厚紙で作る「VRスコープ」を企業の販促ツールや美術館の鑑賞補助ツールとして提案する。キリンビール岡山工場(岡山市東区)では、360度映像で生産過程を“体験”できるサービスとして採用された。凸版の情報コミュニケーション事業本部の角田徹部長は「VRは紙、ウェブに続く次世代のカタログになる」と期待する。

 VRのターゲット市場は多様だが、普及のカギとして各社が共通して挙げるのが「体験機会の提供」。VRはHMDを装着する手間がかかるほか、取り扱いには特有の操作が必要になるケースもあるため、量販店でテレビをアピールするようにはいかないからだ。


 こうした中、注目される取り組みが始まった。複合カフェ(インターネットカフェ)でVRコンテンツを視聴できるサービス「VRシアター」だ。

 インターピア(東京都渋谷区)とエジェ(同港区)が、日本複合カフェ協会(同千代田区)の協力を得て実施するこのサービスは、サムスンのギアVRを貸し出し、有料と無料のコンテンツを用意する。「VRに興味を持った一般消費者が気軽に体験できるタッチポイントをつくった」と楠岡仁志インターピア社長は説明する。4月7日に関東地区の31店舗でスタートし、年内に1000店舗まで拡大する計画。

 またVRシアターで見逃せないのは、実店舗で有料コンテンツの流通の仕組みを整えた点だ。コンテンツで稼ぐための“出口”となるVRシアターは、「コンテンツの充実を促す大きな一歩」(篠崎文剛インターピアVR推進PJ統括リーダー)と強調する。

ゲーム・コンテンツ中心→販促・産業分野での新サービス創出なるか


 VRコンテンツの中で特に期待されるのがゲーム。16年に入り、各社が施策を相次いで打ち出している。

 「VRゲームのリーダーになりたい」(荒木英士取締役)と意気込むのはグリー。「VRはスマホの次のプラットフォームになる」とみて、15年に専用の開発スタジオを立ち上げるなど強化している。またVR事業の可能性を広げるため、北米のVR関連のベンチャー企業を中心に投資する事業を始めた。

 同社の現状の得意分野はウェブゲームやスマホ向けゲームだが、VRではアミューズメント施設や家庭用ゲーム機などマルチで展開していく方針。

 バンダイナムコエンターテインメントは、VRの用途開拓を目指すプロジェクトを立ち上げた。その第1弾として10月下旬まで東京都内でVRエンターテインメント研究施設を運営する。同施設ではスポーツや乗り物の疑似体験、ロボット操縦など非日常的な体験ができるコンテンツを用意。その体験者の意見を集め、今後の開発に生かしていく。4月15日に開業し、「2週間先まで予約がいっぱい」(広報担当)と手応えを感じている。

 VRはゲームなど娯楽分野以外に、販売促進や産業分野での利用にも期待がかかる。リクルートは不動産情報サービス「SUUMO(スーモ)」の無料情報誌の付録として厚紙製VR端末を提供し、一部物件を“内覧”できる試みを行った。

 また本番さながらの訓練ができるとして、外科手術や飛行機の操縦の訓練用シミュレーターとしての活用なども想定される。

 あたかもその場にいるような体験ができるVR。その特徴を活かし、どんな新サービスを生み出すか。今後、VR関連企業の競争が激化していきそうだ。
(文=大塚淳史、松沢紗枝、後藤信之)

日刊工業新聞2016年5月2日 電機・電子部品・情報・通信面
中島賢一
中島賢一 Nakajima Kenichi
新しいコンテンツの視聴・体験のツールが出現することで、関連施設も様変わりが予想される。 映画館は最近、間隔を刺激する新しい上映システムの4DXが出現しているが、VR端末ではそれ以上のインパクトを手軽に体験できる。 これから、端末、コンテンツ、場所の連動がどのようになっていくのか注目したい。

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