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母の日定番プレゼント、色鮮やかなカーネーションを育てる“地道”な品種改良

農研機構、日本オリジナル追求
母の日定番プレゼント、色鮮やかなカーネーションを育てる“地道”な品種改良

白に赤い模様が入った「ミラクルシンフォニー」

 ゴールデンウイークの最終日となる8日は母の日。どんな花を母に贈ればいいか悩む人もいるだろう。定番の花は何といってもカーネーション。赤やピンクなどの色鮮やかな花びらが見る者を楽しませる。その裏では長年に及ぶ地道な研究がある。カーネーションの品種改良を進める農業・食品産業技術総合研究機構野菜花き研究部門の山口博康ユニット長を訪ねた。

6品種交配、痛みにくく―ホルモン出さず薬剤不要に


 母の日は母への感謝を表す日とされている。1900年代初頭の米国で、アンナ・ジャービスという女性が亡くなった自分の母に白いカーネーションを贈ったのが起源とされている。

 近年では中国やコロンビアなどからのカーネーションの輸入が増加。国内生産量が減少し2012年時点では、輸入量と国内生産量がほぼ同程度になっている。国内生産量の増加に向けて、研究チームは日本オリジナルの品種開発を進めている。

 一般的なカーネーションの場合、気温23度Cにおいて花が傷むまでの期間は7―10日。いつか枯れるとはいえ少しでも長く美しい花を眺めていたいものだ。傷む原因は花自体が出す老化を促す植物ホルモン「エチレン」。エチレンが花に作用し、しぼませてしまう。

 そこで研究チームは花が傷みにくいカーネーションに着目し、6種類の品種で交配を繰り返した。その結果、エチレンをほとんど作り出さない品種を05年に完成。赤い花を「ミラクルルージュ」、白に赤い模様が入る花を「ミラクルシンフォニー」と名付けた。一般的なカーネーションに比べ、花が傷むまでの期間を約3倍の3週間に伸ばした。

 これまでも花の品質を保つためにチオ硫酸銀錯塩(STS)という薬剤でカーネーションを処理し、老化を抑える方法はあった。だが、処理しても2週間程度で花が傷む。またSTS処理に手間がかかることもあり、STSを使用せずに長持ちする品種の開発を進めていた。

病気にならず長持ち―美しく強い花作る


 一方、カーネーションのもう一つの“敵”が、植物を急速に枯らす「萎凋(いちょう)細菌病」だ。蒸し暑い日本の夏に発生しやすく、根から感染した菌が苗を枯らす。

 そこで研究チームは、カーネーションと同じナデシコの仲間で同病にかかりにくい野生種「ダイアンサス・キャピタタス」を、カーネーションの品種である「スーパーゴールド」と掛け合わせた。掛け合わせた子どもの世代は見た目がカーネーションとはほど遠い。だが、その後15年以上かけて交配と選抜を繰り返し、同病に極めて強い抵抗性を持つ品種「花恋(かれん)ルージュ」を10年に完成させた。

 長い日持ちや病気に強いといったこれらのカーネーションは、いずれも千葉県や茨城県などの農家で栽培しており、一般的なカーネーションと同程度の価格で販売されている。

 現在、山口ユニット長は長年の品種改良で得た知見を他のカーネーションに応用するプロジェクトに取り組んでいる。「花の大きさや色のバリエーションを増やしたい。また農家などの生産者にとって作りやすいように改善することも必要」(山口ユニット長)としている。そのため生産者や市場関係者もプロジェクトメンバーに加え、評価を聞きながら開発を進めている。

 カーネーションは見た目の良さや病気への抵抗性などを付加し、進化を続けている。こうした研究により、数十年後には美しさと強さを兼ね備えた一層華やかな品種ができあがるかもしれない。
(文=冨井哲雄、福沢尚季)
日刊工業新聞2016年5月2日 科学技術・大学面
昆梓紗
昆梓紗 Kon Azusa デジタルメディア局DX編集部 記者
この時期になると花屋に長蛇の列ができます。スタンダードな赤だけでなく、黄緑、紫、ベージュのカーネーションもあるようです。

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