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映像や音声データと通信技術を組み合わせ災害時などに緊急速報

JVCケンウッドが構築を目指す有機的なネットワークシステムとは
 JVCケンウッドは、緊急地震速報などを受信して周囲に一斉放送するような非常・業務用放送設備や、監視カメラ、業務用無線など、防災に関連するさまざまな製品を展開している。現在は自治体や企業向けに、装置単品で導入するのが一般的だ。そこからさらに高い付加価値を提案すべく取り組むのが、それぞれの製品や得られたデータを連携、相互利用するシステムの構築。通信技術や画像解析技術などを駆使して“その時必要な情報”の提供を目指す。

 開発しているのは、街中や河川などの野外に設置された監視カメラや、業務用放送設備などから得られた映像・音声データに意味づけして発信するシステムだ。

 例えば、監視カメラの映像や「火事だ!」という声からその現場を発見。周囲の様子や発言内容を映像や音声で取得して緊急度を判断し、街頭放送やスマートフォンなどを介した避難経路の指示につなげる―。こんなことも不可能ではないという。

 2016年4月には、監視カメラや音響システム、無線システムなどの業務用機器と、関連するシステムやサービスを集約した新会社「JVCケンウッド・公共産業システム」を設立。製品群や事業の横連携を強化し、ソリューションとして展開する体制を整えた。

 同社の早川勉取締役技術本部長は「マーケティング部隊を強化し、顧客のニーズを取り入れながら使い勝手を高めていく」と意気込む。

伝送技術カギ


 開発するシステムの中核になるのが、映像や音声データの伝送技術だ。特に映像データは大容量通信が欠かせない。そこで2013年頃から、ブロードバンド通信に関わるタスクフォースを組織し、技術開発を開始。既存のLTE回線を使い、これらのデータを効率良く伝送する技術を確立した。早川取締役は「携帯電話事業を手がけていた時代のノウハウが生きた。カメラや無線機器だけでなく、通信技術を持っているのが我々の強みだ」と胸を張る。

 次の課題は得られた映像データをどうやって「使える情報」にしていくか。音声解析技術はオーディオやカーナビゲーションシステムなど、自社で蓄積してきた技術を活用。また画像解析分野では米IBMと連携をはじめ、監視カメラで技術導入を始めている。

将来はデータ販売も


 今後は他社と連携して実際のデータを集め、現実のケースに落とし込むことを検討している。1年から1年半後には、実証試験を行ってデータの蓄積や情報解析精度の向上などを進め、事業化する計画だ。

 将来は、蓄積・解析したデータを使ったデータビジネスも視野に入れる。防災だけでなく、映像や音声を元にした人々の行動履歴から、避難場所の様子や営業している店舗情報など、被災後の状況把握にも役立てることを狙う。「防災・減災から被災時までカバーする、使い勝手のいいシステムを構築したい」(早川取締役)。被害を最小限にとどめる社会の実現に向け、実用化を急ぐ。
(文=政年佐貴恵)
日刊工業新聞2016年5月2日
政年佐貴惠
政年佐貴惠 Masatoshi Sakie 名古屋支社編集部 記者
今回の熊本地震でもそうだが、災害が起きた後は支援物資の偏りや不足を把握することが重要になる。通信環境の有無で支援状況に差が出ることもあるだろう。どこの避難場所に支援物資が集中し、どこに足りていないかを音声や映像情報から複合的に把握できるようになれば、ずいぶんと有用性は増す。一方で通常時の個人情報への配慮が課題になる。すでに開発を進めている企業も複数あるが、今後は個人を特定せずに必要な情報を得られる映像解析技術が発展していくだろう。

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