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《知財を考える#03》「死蔵特許」が他社にはお宝に見える!

文=本間賢一(IP―FOCUS代表・弁理士)相互消化のシステムを
 小説からテレビドラマになった「下町ロケット」では、それまで会社内で「死蔵特許」あるいは「お荷物」と思われていた特許が、他社からの高額な条件での譲渡の申し入れがあって、はじめてその価値が認知される場面がある。このようなドラマチックな場面でなくとも、第三者から自社特許の価値評価をしてもらえるような仕組みは作れないだろうか。現在、知的財産権の価値評価手法としてさまざまな手法があるが、第三者による価値評価の可能性を探ってみたい。

 特許権などの知的財産権は、実際に特許権の侵害訴訟で損害賠償金を勝ち取った場合や、ライバル企業の製品を差し止めた場合などは、その価値を明確な形で知ることができる。また、自社の特許などについて他社にライセンスを行った場合も、ライセンス料としてその知的財産権の価値が明確に表れる。

 ところが、知的財産権の多くはそのような直接的な収入につながっていない。知財担当者としては「自社の知的財産権は、他社に対して抑止力となっており、競合製品の参入阻止を実現している」と胸を張って言いたいところだが、実際のところその担当者にも確を持っていないことが多い。

 そのため、前述のドラマのように、経営陣や社員の中に、知的財産権の取得に対してマイナスイメージを持っていたり、費用ばかりがかかって実益がないと考える者が現れることになる。

 ここで、視点を変えて他社の知的財産権について見てみるとどうだろう。モノづくり企業の多くは、定期的にライバルメーカーの特許を調査して、自社の開発しようとしている製品が他社の特許権に抵触しないかなどの確認を怠らない。

“抑止力”の実益を知る


 そんな日々の知財活動の中で、問題となりそうな特許権などが発見された場合、知財担当者は、その発見された特許権などを回避すべくさまざまな対応を行うことになる。裏を返せば、他社にそれだけの対応をさせた抑止力となっているということであり、価値の高い権利であるといえる。ただ、その事実はその特許権などを持っている権利者自身は知ることができない。

 そこで提案であるが、日々の知財活動で価値があると認められた他社の特許などに対して、ポイントをつけて集計し、それを価値として評価してみてはどうだろうか。当然、このような情報は、その情報を発信する会社にとっては不利益な情報であるため、通常は外部に出ることはない。

 一方でこのような情報は、自社の特許などの評価を得られる可能性があるため、情報を発信するメリットがあることは明らかである。後は、情報を発信することによるデメリットを極力なくすような制度設計を行い、皆が安心して情報を発信することができるシステム構築をすればよい。

 このようなシステムが構築できれば、従来のような漠然とした評価ではなく、確固たる評価を得ることができる。会社の知財部門に対する評価も向上し、知財業界全体の活性化にもつながることが期待できる。

 このような仕組みを実現するためには、参加する企業にとって中立な立場の人たちによる運営が必要である。特に公益法人の方々や知的財産協会などの方々に協力を頂き、新たな評価システムを構築できれば幸甚である。
【プロフィール】
本間賢一(ほんま・けんいち)1984年愛媛自動車工業専門学校(現日産愛媛自動車大学校)卒業。自動車メーカーや特許事務所勤務を経て、2015年にIP-FOCUS設立。



日刊工業新聞4月18日付「発明の日・企画特集」
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
パテントスコアの分析ツールがたくさん出始めている。今後はAIがこの領域にもどんどん入り込んでくるくるだろう。相互や中立な立場での評価は、技術流出や機密漏洩との相反する面もある。

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