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伸び率鈍化も想定通り?3年目の「官製春闘」

大手企業の月例賃金
 経団連がまとめた春季労使交渉(春闘)における大手企業の月例賃金の引き上げ額(第1回集計・ベースアップと定期昇給)は7174円で、前年実績に比べ2・19%増加した。回答額で7000円を上回り、アップ率でも2%超の水準は3年連続となる。大手企業の15業種62社の回答状況をまとめた。安倍晋三政権が企業に積極的な賃上げを呼びかけてから3年目となる「官製春闘」だが、過去最高水準のベースアップ(ベア)を実現した前年に比べると、回答額は前年実績(8502円)を下回っており、世界経済の先行き不安や円高の逆風を反映する結果となった。

 業種別では春闘相場を主導する自動車が8200円(アップ率2・37%)、造船が7461円(同2・46%)だった。

 安倍政権は企業による大幅な賃上げにより回復力が弱い個人消費を喚起し、経済の好循環を早期に実現したい意向だが、年初から企業を取り巻く経営環境が大きく変化。中国経済の減速懸念と原油安に伴う国際金融市場の混乱に円高進行も加わり、企業経営者の景気への先行き不安が広がっている。

 日本総合研究所の山田久調査部長は「世界経済の不安定性が増すからこそ、内需主導の自律回復力を高めていくことが本気で問われる一年になる」とした上で、「ベア・賃金改善は小幅でも前年を上回る結果が望ましく、持続的な増加トレンドを確立することが不可欠」と指摘している。
日刊工業新聞2016年4月19日付総合3面
神崎明子
神崎明子 Kanzaki Akiko 東京支社 編集委員
経営判断であるはずの賃上げに政府が介入する異例の事態といえる「官製春闘」。伸び率こそ鈍化したものの経団連は「3年連続の増加」を強調。政府の要請に最大限応えたと言いたげです。重要なのはこうした「お膳立て」がなくても賃金が持続的に上昇していく姿を民間主導で描けるかどうかです。

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