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新日鉄住金がLNGタンク用鋼板で海外攻勢をかけるワケ

ニッケル価格の底打ちでコスト競争力付く。LNGプロジェクト再開の機運も
新日鉄住金がLNGタンク用鋼板で海外攻勢をかけるワケ

新日鉄住金の7%ニッケル鋼板が初採用された大阪ガスのLNGタンク

 新日鉄住金が近く、省ニッケルの液化天然ガス(LNG)タンク用鋼板の海外販売を始める。国内で初めて使われたLNGタンクが操業し、稼働実績ができた上、海外で標準化に向けた規格登録が進んでおり、採用機運が高まっているためだ。低迷していたニッケル価格も底打ちの兆しが見え、コストメリットも打ち出しやすくなる。2018年度で2万トンという販売目標に向け、海外進出が大きな弾みとなる。

ニッケル削減も強度同等


 これまでのLNGタンク用鋼板は、高価なニッケルを9%含んでいるが、同社ではこれを7%に削減しつつ、9%品と同等の強度や耐久性を実現した。これにより、ユーザーのコストは「今のニッケル価格なら、ざっくり1割弱は安くなる」(長尾年通厚板事業部上席主幹)計算だ。

 初採用となった大阪ガスの泉北製造所(堺市西区)第一工場5号タンクが昨年12月に完成し、運用が始まった。このほか、東邦ガスと石油資源開発のLNGタンクに採用が決定済み。3件合計で約8100トンの鋼板を出荷することになる。

 4件目以降も「海外含め、引き合いはある。これまでも各社の関心は高かったが、採用実績がないのがネックだった。LNGでリーダー的存在の大阪ガスでタンクが稼働したのが大きい」(同)と手応えを感じている。

LNG価格下落でチャンス広がる?


 特に、海外ではLNG基地の開発案件がめじろ押し。昨今の原油安でLNG価格も下がり、いくつかのプロジェクトが凍結されるなど逆風の環境下ではある。

 ただ、LNG価格が下がった分、すでに事業に着手している開発者はプロジェクトの総投資額を下げたいという動機が働くため、新日鉄住金では逆に「当社の7%ニッケル鋼のチャンスが広がる」と見ている。

 さらに鋼板の標準化に不可欠な規格化も進む。すでに日本工業規格(JIS)に加え、海外では米国機械学会(ASME)、米国材料試験協会(ASTM)で登録済み。特に「世界で使ってもらうには米石油協会(API)規格が不可欠。14年12月に承認されており、もうそろそろ新しい基準が発効される。いよいよ世界中で使ってもらえる」と意気込む。

まずは7%で実績


 さらに、各規格ではニッケル含有量を6・0―7・5%の範囲で規定されており、7%からさらに減らすことも可能だ。LNGタンクの内壁材は重要保安部品でもあり、「まずは7%で実績を積み重ねる」方針だが、将来的にはより省ニッケルで供給する意向。いずれニッケル価格の上昇も見込まれることから、さらなる競争力向上の可能性を秘めている。
(文=編集委員・大橋修)
日刊工業新聞2016年4月21日 素材・ヘルスケア・環境面
村上毅
村上毅 Murakami Tsuyoshi 編集局ニュースセンター デスク
マイナス162度Cの極低温で貯蔵するLNGタンクには、鋼板に高い強度が求められる。従来は9%ニッケル鋼が主流だった。新日鉄住金は9%ニッケル鋼で世界シェアの4割を占める、“うまみ”の大きな事業でもある。価格が下がったと言ってもニッケルの含有量を減らせられればコスト削減効果も大きく、競争力につながる。

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