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フィンテックをけん引するベンチャーは銀行に対抗する勢力に育つか

まずはネットバンキングやカード決済の改善で活躍できる可能性
 ITと金融を融合させた新サービスを提供する「フィンテック」が脚光を浴びている。けん引するのはベンチャー企業だ。その成長力はずばぬけて高く、金融デジタル革新の台風の目となっている。

 金融機関が手がけない“隙間ビジネス”から始まったフィンテック。明確な定義はないが、専用機で行っていた決済機能などをスマートフォンでできるアプリケーション(応用ソフト)が先駆けだ。

 決済から始まり、個人の資産運用や貸し出しなどへと拡大。銀行の入出金やカード情報を基に家計簿を自動で作成するサービスなどが実用化されている。

 今や、そこには大きな市場が広がっており、金融機関やITベンダー、流通企業などが参入している。2月、国内最大級のフィンテックの国際コンテスト「FIBC2016」が都内で開かれた。5回目の今回は大賞を射止めた米アルパカDB(カリフォルニア州)のほか、テックビューロ(大阪市西区)や米シフト・フィナンシャル(カリフォルニア州)など過去最多の21社が登壇した。

 FIBCはフィンテックの最新動向を知る場としても注目されている。今回も人工知能(AI)や金融取引の管理に使うブロックチェーン(分散型台帳技術)などを応用したサービス、世界中のVISA加盟店で仮想通貨「ビットコイン」が使えるカードなど話題は満載だった。

産業革命並みに爆発的な成長!?


 会場に詰めかけた300人強の参加者を前に全員が英語でプレゼンテーションした。熱心に聞き入るのは金融機関の担当者。狙いは“青田買い”だ。

 金融機関はフィンテックで連携できる企業を目を皿のようにして探す。三菱東京UFJ銀行は2015年に協業するベンチャー企業を発掘するコンテストを始めた。

 新たな動きに対して小山田隆頭取は「10年後をにらむとビジネスや店舗のあり方が変わる。(フィンテックには)かなりのリソースを投入する」と強調。佐藤康博みずほフィナンシャルグループ社長も「産業革命に匹敵する」と重要性を表現する。

 米アクセンチュアの調査によると、全世界でのフィンテック投資は欧米を中心に14年が約1兆3000億円と、前年比3倍に跳ね上がった。日本を含むアジア太平洋地域は全体の7%とまだ小さいが「今後爆発的に伸びる」と村上隆文アクセンチュア日本法人マネジング・ディレクターはみる。

 FIBCを主催した電通国際情報サービスの釜井節生社長は「この1年でフィンテックの存在が大きくクローズアップされた」と驚きを隠さない。その上で「当社のようなIT企業が双方をつなぎ新しい市場を創出したい」と期待を込める。
日刊工業新聞2016年4月19日
安東泰志
安東泰志 Ando Yasushi ニューホライズンキャピタル 会長
日本においては、銀行取引ができない層(いわゆる"unbanked")が少なく、商業銀行のリテールサービスが過剰品質なので、決済やP2P融資などのフィンテックには厳しい環境。一方、駅前に多額の費用をかけて店舗を作り有人対応する日本独特の銀行モデルは、ネットバンキングやクレジットカード決済が拡がっていけば改善の余地がある。 まずはこうした環境を整えていくことが既存銀行をベースとしたフィンテック発展の基礎になる。だが、できればフィンテックは銀行傘下に入らず、銀行に対抗する勢力に育って欲しい。

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