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積水化学、CNT使った温度差発電シートをサンプル出荷

センサー用電源への採用を想定。18年度の製品化を目指す
 積水化学工業は19日、カーボンナノチューブ(CNT)による熱電変換材料を使った温度差発電シート(写真)を試作し、電子部品やセンシング機器メーカーなどにサンプル出荷を始めたと発表した。2018年度の製品化を目指す。温度差を使ったエネルギーハーベスティング(環境発電技術)向けで、大型商業施設の地下施設や空調の配管、大型倉庫、船舶などのセンサー用電源への採用を想定する。

 CNTの両端に温度差をつくることで電力を発生させる「ゼーベック効果」を利用した。生活環境など身近な温度領域で発電できる。シート両面の温度差が50度Cある場合の出力特性は、電圧250ミリボルト、電流7・6ミリアンぺア、電力475マイクロワット(マイクロは100万分の1)。大きさは123ミリ×68ミリメートル、厚さ最大2ミリメートルで、薄型・軽量で柔軟性もある。鉛やテルルといった毒性物質も含まない。

 奈良先端科学技術大学院大学と開発したCNT熱電変換材料を応用した。積水化学が持つナノ材料の分散技術や成膜技術を用い、CNT不織布を作成。個片化した素子をフィルム基板上に並べ、発電シートに仕上げた。発電性能に優れるテルル系の熱電材料は柔軟性や耐久性、毒性物質の含有などが課題。これに対し、有機系の熱電材料は発電効率の向上が難航していた。

“CNTの父”飯島澄男氏インタビュー


日刊工業新聞2015年11月02日


 ―産総研ではナノカーボン研究センター長を務め、実用化もけん引しました。
 「CNTは一大研究分野に成長した。日本発の炭素材料として実用化への期待も大きい。CNTの科学への貢献は100点だが、産業への貢献はまだ20―30点。日本ゼオンの工場が稼働し、ようやく産業化のスタートラインに立てる。ここまで来るには荒川社長の尽力が大きい。30年前から構想を温め、会社を説得し開発を続けてきた。新しい材料を世に出すには、それだけの志が必要だ」

 ―苦労した点は。
 「研究室で新物質を開発し企業に提案しても、大学で作れる数グラム程度では何も動かない。既存の製造ラインへ適合させ、製品の耐久性を試験するには数十キログラムからトンのオーダーで必要になる。まずCNTが安定供給されないと検証できない」

 ―量産化や用途開発では後進の研究者の貢献が大きいです。
 「研究も開発も、するのは人間だ。優秀な人材が集まり、良いアイデアが出た。これから本格的な製品応用が始まる。幅広い産業分野で知恵を貸してほしい」
(名城大学教授 NEC特別主席研究員・産業技術総合研究所名誉フェロー)
日刊工業新聞2016年4月20日素材面
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
CNTは炭素でできた極細のチューブだ。1991年に飯島氏が発見した。理想的な単層CNTは比重がアルミニウムの半分で強度は鉄鋼の20倍、電子移動度はシリコンの約10倍で、流せる電流量は銅の1000倍、熱伝導性も銅の5倍以上。現在、事業化されている多層CNTはCNTの中に何本ものCNTが入ったもの。 夢の材料が普及しない理由は既存の炭素材料とのコスト競争だ。カーボンブラックが1キログラム当たり3000円以下で、製造しやすい多層CNTは同2万―3万円、単層CNTは同1000万円程度とされる。産総研は単層CNTの生産コストを1000分の1に抑えるスーパーグロース法の開発を進め、ようやく昨年、日本ゼオンの量産工場が完成した。キャパシターは日本ケミコンが16年度に実用化予定。日本ゼオンも16年度中にCNT応用製品を発売するという。車載用電池、半導体関連、構造材などでの実用化が期待される。

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