着々と「消費増税延期」に向かう!?変質するアベノミクス

財政健全化と経済再生、両立難しく

安倍首相とクルーグマン名誉教授

 2017年4月に予定通り消費税率を10%に引き上げるのか、それとも増税を延期するのか―。日本経済が“踊り場”に立たされている中、衆参同日選も視野に入れる安倍晋三政権の政治的な思惑も絡んで“増税延期論”がくすぶる。首相は緊急経済対策の策定方針を固めるほど景気回復力の弱さを懸念しており、増税延期が現実味を帯びる。だが増税延期となれば、財政健全化と経済再生の両立を目指す政権の経済政策「アベノミクス」は総点検する必要がある。 . 「(08年の)リーマン・ショックや大震災のような事態が発生しない限り、予定通り(消費税率は17年4月に)引き上げる」「(衆院解散は)頭の片隅にもない」―。安倍晋三首相の発言を”永田町“や市場関係者らは額面通りには受け止めていない。与野党が激突する衆院北海道5区補選(4月24日投開票)、さらに内閣府が5月18日に発表する1―3月期の国内総生産(GDP)速報値をいかに政権が評価するかに関心を寄せる。  補選で与党が勝利し、GDPも思わしくなければ消費増税延期と衆参同日選を決断し、「任期中に目指す」と首相が公言する憲法改正の動きが強まるとも取りざたされている。  安倍首相は5月末の伊勢志摩サミット(主要国首脳会議)後に緊急経済対策を盛り込んだ16年度補正予算案を編成する方針を固めた。  政府が5月にまとめる「ニッポン一億総活躍プラン」にも盛り込む子育て支援策やプレミアム(特典付き)商品券の発行といった消費喚起策を打ち出す見通しで、この緊急対策と同時期に消費増税延期の是非を判断する可能性がある。  だが、そもそも日本経済は消費増税を延期せざるを得ないほど低迷しているのか。緊急経済対策を講じても、なお景気の腰折れが懸念されるのか―。  年明けの金融市場の混乱により世界の株式時価総額は8兆ドル目減りし、リーマン・ショック直後に失った5兆ドルを上回るとして「重大な事態」と位置づける有識者もいる。しかし足元の日本経済は足踏みこそしているもののリーマン時ほどではない。  また一時1バレル=20ドル台まで急落した原油価格も主要産油国による生産調整の兆しから同40ドルをうかがう水準まで回復。米国の利上げペースも緩み、金融市場は一時より落ち着きを取り戻している。  ここで問題なのが、消費増税延期の是非をめぐる判断基準のあいまいさ。増税延期が必要かの判定は政治責任で行うという。安倍首相は「日本経済が危うくなる道はとらない」とも発言し、リーマン・ショック級の不況でなくても増税を延期する可能性を示唆する。  ただ増税延期は”景気条項“を封じてまで17年4月の消費税率10%を約束した政権のアベノミクス失敗と受け止められる。経団連は予定通りの消費増税実施を求め、増税可能な経済環境とすることを政権に期待する。増税延期は社会保障改革を足踏みさせ、将来世代に禍根を残すためだ。  首相は増税延期に踏み切るのか、経団連と同様の判断となるのか。サミット後に政治決断する。 <次のページは、景気の回復力弱く金融政策に手詰まり感>  安倍首相がサミットを控えて開催している有識者との意見交換会「国際金融経済分析会合」は、消費増税延期への布石ともみられている。  講師はアベノミクスへの理解者が多く、ノーベル経済学賞を受賞したポール・クルーグマン米プリンストン大学名誉教授、ジョセフ・スティグリッツ米コロンビア大学教授の2人は、消費増税の延期を提案した。増税延期の論拠を固めつつあるようにも映る。  内需拡大に向けた動きは予算にもみられる。29日に成立した一般会計総額96兆7218億円の16年度予算は子育て世代や中小企業、農業など広範囲に目配りし、歳出規模は過去最大。15年度補正予算では年金受給者に3万円支給する臨時給付金を予算措置し、高齢者を含めたすそ野の広い消費喚起策を講じた。  「経済成長なくして財政健全化なし」と訴える安倍政権。だが一連の補正などでどこまで消費を喚起できるのか不透明感は否めない。経済成長と財政健全化の“二兎”(にと)どころか、成長の一兎(いっと)を獲るのも容易ではない。 . 消費増税を延期すべきかは別として、日本は景気回復力の弱さが懸念される。15年10―12月期の実質GDP成長率(年率換算、改定値)はマイナス1・1%と2四半期ぶりのマイナス成長。日本経済研究センターによると、焦点の1―3月期は”うるう年“効果からプラス0・81%と小幅ながらプラス成長を主要シンクタンクは予測。安倍首相が同期の数値をどう評価するかが注目点だ。  また主要シンクタンクは15年度の実質成長率をプラス0・67%、16年度をプラス1・04%、消費増税を前提に17年度はマイナス0・04%と見通す。消費増税を延期しても17年度は小幅なプラス成長とみられている。  政府は20年度に基礎的財政収支(プライマリー・バランス、PB)黒字化という財政健全化計画と名目GDP600兆円の達成を目指している。だが600兆円は年度平均で実質2%、名目3%以上の高い成長率を維持し続けることが前提だ。  PBも、この高い成長率と17年4月の消費増税による税収増を織り込んでも20年度に6兆2000億円の赤字が残ると政府は試算。増税延期なら財政健全化はさらに遠のく。  アベノミクスは日銀の金融緩和による円安・株高で企業収益を押し上げ、経済成長に伴う税収増で財政健全化を進めるシナリオを描く。ところが円高基調に傾く世界経済の減速懸念は、日本としていかんともし難く、金融政策もマイナス金利導入に至るなど手詰まり感を否めない。  財政政策も、15年度補正で措置した高齢者向け臨時給付金には自民党内にも選挙対策の“バラマキ”との批判があり、視野に入れる16年度補正も臨時給付金と似た発想の商品券給付など、明確な消費喚起を期待しにくい。  雇用情勢が改善したわりに16年春闘での賃上げ率が伸び悩んでいるのも、これまで非正規雇用対策や多様な働き方改革を怠ったことが一因している。  利下げや財政出動の対症療法では消費も設備投資も浮揚効果は限定的だ。税収も増えない。金融緩和による期待インフレ醸成という“マインド戦略”から実需の創出、新産業の創造へと成長戦略を深化させつつ、これまで踏み込まなかった歳出改革に乗り出すことで財政健全化を推進したい。政権が消費増税を延期するなら、“二兎”を追うアベノミクスは総点検が求められる。 (文=神崎正樹)

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