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建設機械「ニューノーマル」へ

成長軸は中国変調・偏重からIoTに移るか
 建設機械業界が新たな時代に入った。中国経済が減速し、巨大市場にかつての勢いが戻ることはない。その影響で、新興国の鉱山機械需要の落ち込みも続く。市場環境の大幅な変化で、建機メーカー各社は戦略変更を余儀なくされている。モノのインターネット(IoT)時代を見据え、新たな成長への模索も始まっている。

 「2016年もまだまだ厳しい」(大橋徹二コマツ社長)―。中国市場の先行きを危ぶむ声は依然強い。一大商戦の春節明けも、「昨年と似たようなもの」(同)と芳しくない模様だ。

 15年の中国市場は、振るわなかった14年に輪をかけて落ち込んだ。需要の4割が集中するとされる春節明け商戦が不発に終わり、2月の需要は前年実績の2割に急落。以降も5割ほどと大きく低迷した。地方政府が財政難で工事を進められず、不動産投資も低調だった。各社は通期業績予想を相次いで下方修正した。

 15年末には需要は4割減ほどになり、下落幅は縮小している。だが16年の春節明けも「明るい材料は少ない」(辻本雄一日立建機社長)と悲観する声が強く、各社は毎年恒例の春節前の増産をしなかった。

 春節が明けても、販売は15年並みの低水準で推移している様子。大規模な地方債が発行されたことで、地方政府の投資余力は戻りつつあるが、具体的な動きになっていない。

 中国では政府が08年に発表した4兆元の景気刺激策の効果で、10年度の建機販売は空前の規模に拡大した。コマツの大橋社長は「昔に戻るとは思っていない」と需要が当時のようには回復しないと見込む。

 中国政府は3月に開いた全国人民代表大会(全人代、国会に相当)で、道路と鉄道の整備に約2兆5000億元規模を投資すると表明した。建機需要回復が期待できるが、大橋社長は「地方に実務が降りてくるには時間がかかる」と早期の波及効果には否定的だ。

 中国政府は新常態(ニューノーマル)として、高度成長から安定成長に路線変更した。建機需要がかつての規模に戻ることは難しく、春節明け商戦の盛り上がりも縮小するとみられる。その中でどう収益を出すのか。

 各社は工場の稼働率を大幅に落とし、雇用契約期間が満了しても延長しない自然減で、人員を適正化してきた。こうした対策は講じたが、需要回復まで持ちこたえられるかだ。成都、杭州に工場を置くコベルコ建機の藤岡純社長は「需要がさらに縮小すれば、2工場必要なのかという考えも出てくる」と生産体制再編も示唆する。

 世界最大の市場として経営の屋台骨だった時期から、状況は様変わりした。現状に即した立ち位置への転換を済ませ、反転の時をうかがう。

<次のページは、鉱山機械、需要回復に時間>

2016年3月24日/25日/28日機械
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
建機業界は世界経済の影響を受けやすく、これまでも多くの浮き沈みを経験してきた。各社のトップは「上がることも下がることもあるのがこの業界」とよく口にする。とはいえ、中国市場の不振について、「これまで経験したことがない」と表現した人もおり、今までにない逆風を受けていることは確かだ。連載で紹介していないが、各社は工場の電力削減、生産改革にも取り組んでいる。自分たちができる範囲のことは着実にしている印象だ。コマツがIoTを駆使したサービス型ビジネスに熱心なのも、建機業界の将来を見据えてのことだ。危機の中でこそ、新たな時代への芽が育つもの。建機業界の明日はそれほど悲観的なものではないだろう。(日刊工業新聞社編集局第一産業部・戸村智幸)

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