トヨタグループの不文律が崩れた「3年目の官製春闘」

中堅・中小企業、非正規でこれまでの常識が変わり始める

主要企業の回答が集計ボードに書き込まれていく(金属労協)

 2016年春の労使交渉(春闘)は、トヨタ自動車をはじめ大手主要メーカーがベースアップ(ベア)を実現した。ただ多くの企業の水準は15年を下回る結果に終わっている。ベアが低調となる中、経済好循環に向けた取り組みも正念場を迎えそうだ。  3年目を迎えた「官製春闘」。日産自動車が満額回答のベア3000円で決着したものの春闘相場をリードするトヨタは労働組合が要求した額の半分の1500円で決着した。  トヨタ、日立製作所の労働組合が所属する自動車、電機労組は、15年要求の半分のベア3000円を要求した。春闘開始当初は、官邸サイドの強い要望と経済の好循環に向けた経営側の理解から自動車大手は一定の賃上げに理解を示したと見られていた。しかし、新興国経済の低迷など、世界経済の変調で賃上げムードは盛り上がりに欠けた。  ただ、モノづくり労組が集結する金属労協(JCM)傘下労組では、自動車では好調な業績を反映して一時金は満額回答が相次いだ。格差是正・底上げに向け非正規労働者の待遇改善や最低賃金引き上げに向けた動きも広がった。  大手鉄鋼と造船・重機労組が加盟する基幹労連は、ベアに当たる賃金改善分(16年度と17年度との2年分を合わせ)8000円のベアを求めた。経営側の危機感を崩せず2500円の水準に終わったが、工藤智司基幹労連委員長は「十分とは言えないが、人への投資が(ベアを)動かした。勝負はこれから。中堅・中小がどれだけ引き出せるかだ」と後続労組の交渉に期待を寄せる。   東芝、シャープ両労組が脱落した電機連合も「この3年間の交渉で一番厳しい。経営側に先行き不安が強い」(有野正治委員長)と15年妥結額の半分にとどまった。ただ、3年連続のベア確保への手応えは感じている。  従業員の7割を占める中小企業労働者と労働者全体の4割を占める非正規の底上げができるかが経済の好循環の成否を握る。金属労協は「総じて規模の小さい組合ほど要求額が高い」とし、3月中にまとまる中堅・中小の交渉に向けて底上げ・格差是正に取り組む姿勢を改めて確認した。  相原康伸金属労協議長は「底上げ・格差是正に向けいいスタートが切れた」と今春闘を評価した。ただ、安倍晋三政権の経済政策「アベノミクス」の恩恵を受けていない中堅・中小企業の賃上げ交渉は簡単ではない。 <次のページは、焦点はこれから本番を迎える中小交渉>  人手不足を背景に、労働者の4割を占める非正規労働者の待遇改善も前進した。連合の神津里季生会長が「底上げ春闘のバネになる」というように、トヨタ自動車が非正規社員の期間従業員の日給を1日150円引き上げ要求に満額回答した。ベースアップ(ベア)3000円に当たり、正社員の月額ベア1500円の2倍の数字だ。  大手ベアリングメーカーのNTNも期間社員の日給を100円引き上げた。ベア・一時金とも満額回答を勝ち取った計測機メーカーのアズビルは時間給労働者の時間給10円の引き上げ要求にも満額回答。島津製作所、シチズン、NTN労組なども時間給引き上げを勝ち取り、島津は臨時社員・パート社員への半日年休制度と慶弔特別休暇制度の導入を決めた。  正社員1600円のベアで決着したNTTグループは、7万人の非正規社員の内、月給制社員約1万人の月額賃金を1100円引き上げるほか、60歳を超えた月給制再雇用社員1万人も同額引き上げる。  UAゼンセン傘下の家具製造販売大手のニトリ労組も正社員の賃上げのほか、非正規の時給28・7円の引き上げを勝ち取った。流通大手のイオンも約7万人の非正規社員の時給を39・9円引き上げる。全日本空輸(ANA)は時間給契約社員の時給を15円引き上げ、雇用延長・継続雇用社員の月給を600円引き上げるなど、幅広い業種で、基幹労働力化した非正規労働者の確保に腐心する。  今後の焦点はこれから本番を迎える中小交渉。「極めて象徴的なことだ」(神津連合会長)。「象徴的」とはトヨタグループ内の「トヨタの賃上げ額未満で決着する」という不文律を崩し、デンソー、アイシン精機、豊田自動織機がトヨタのベア額と並ぶ月額1500円で妥結したことだった。トヨタと同額の回答を引き出したのは8年ぶりだ。  一方、豊田鉄工(愛知県豊田市)や従業員1000人以下の中堅・中小でトヨタの回答額を超えるところが複数出た。  神津連合会長は「中堅・中小は親会社の大企業より賃上げが低い、というこれまでの常識からどう転換するかだ」と訴え、公正取引問題を前面に中小・地場交渉に臨む。  労働者の7割を占める中小労働者の賃上げは経済の好循環には欠かせない。しかし、現実は厳しい。円安で原材料費が上昇しているにもかかわらず、取引先の大企業の値下げ要求で価格に転嫁できないケースも多いからだ。安倍晋三政権の経済政策「アベノミクス」は正念場を迎える。 (文=八木沢徹)

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