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ローソン、農業で地方創生―地熱温水ハウス栽培ピーマン、農業法人も

ローソン、農業で地方創生―地熱温水ハウス栽培ピーマン、農業法人も

豪雪地帯である岩手県八幡平市のビニールハウスからピーマンを出荷

 ローソンが農業分野に力を入れている。このほど岩手県八幡平市で、地熱温水を使ったビニールハウスで栽培したピーマンの出荷を始めた。当面は近郊の店舗のみだが、4―5月には関東の一部店舗でも販売する予定だ。同社は全国に農業法人「ローソンファーム」の設立も進めており、農業者減少や高齢化が進む中、地方創生と農作物の安定調達の両立を目指して事業の確立に取り組んでいる。

後継者不足、販路確保が困難


 「クリーンエネルギーの活用とともに、地方創生を目指したい」。前田淳ローソン執行役員は事業の狙いをこう説明する。市内の地熱発電所が供給した温水をビニールハウスに引き、ピーマンを周年で生産する計画だ。栽培は八幡平市で馬ふん由来の堆肥を使った農業に取り組んでいる企業組合が担っている。

 八幡平市は1月の平均気温がマイナス3度Cの寒冷地で、積雪量も多い。約30年前に地熱温水を使ったビニールハウスで花卉(かき)などの栽培が始まったが、後継者不足や販路確保が難しくなり、農作放棄状態のビニールハウスが増えていた。

 ピーマンの栽培にあたり、市が約1100万円を負担してビニールハウスを改装した。温水のコストは重油の5分の1以下で、二酸化炭素(CO2)の排出量も抑えられる。田村正彦市長は「ローソンの商品開発力や販売力と組み合わせることで、地熱発電の素晴らしさを全国に発信したい」と期待する。

30カ所で稼働予定


 ローソンは20代、30代の若手農業者との共同出資で農業生産法人「ローソンファーム」を全国に設立し、収穫したキャベツやコメなどを店舗で販売している。現在のローソンファームの数は23で、八幡平を含め、2017年2月期中に30カ所で稼働予定だ。前田執行役員は「『農業をやっている』と旗揚げする小売りは見受けられるが、簡単ではない。当社は相当なコストを割いており、東日本大震災や台風などの天災と向き合い、失敗もしている」と難しさを語る。それでも取り組むのは、農業者の減少で「若手を育てなければ、調達できる野菜がなくなる」(前田執行役員)との危機感がある。

コンビニの強み生かす


 同社はスーパーマーケットの代替ニーズや健康への関心をつかむため、生鮮や総菜を強化する方針だ。ローソンファームで収穫した農産物は土壌に配慮して栽培し、生産履歴を管理している点を訴求している。規格外品は総菜などに加工して販売できる、コンビニの強みも生かす。

 小売業界では各社が農業分野への取り組みを加速。イオン傘下のイオンアグリ創造(千葉市美浜区)は全国20カ所で農場を運営し、4月には徳島県阿波市で四国初の直営農場を開く。セブン&アイ・ホールディングス(HD)は販売期限切れなどの野菜を堆肥にして野菜を育てる、「循環型農業」を進めている。
(文=江上佑美子)
日刊工業新聞2016年3月9日 建設・エネルギー・生活2面
昆梓紗
昆梓紗 Kon Azusa デジタルメディア局DX編集部 記者
サービス側、消費者に近い側から生産を考え、作り出すというマーケットインの図式が見えてきました。今まで農業がプロダクトアウトだったことに気が付きました。

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