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人工股関節、銀コーティングで抗菌作用

佐賀大と京セラ子会社が共同開発し4月に発売。手術後の感染症防ぐ
人工股関節、銀コーティングで抗菌作用

銀コーティングした人工股関節の部品(左上は骨盤、右下は大腿骨に取り付ける)

 佐賀大学医学部の馬渡正明教授らと京セラメディカル(大阪市淀川区、槐島登士巳〈げじま・としみ〉社長、06・6350・1036)は、人工関節の表面に殺菌作用のある銀の被膜を付け、手術後の感染症を防ぐ技術を開発した。同技術を適用した人工股関節について、厚生労働省の製造承認を取得。4月に日本で発売する。価格は、銀被膜のない従来の人工股関節と比べて約5%割高になる。

 発売するのはセメントを使わずに骨盤や大腿(だいたい)骨と接合するタイプの人工股関節。従来品は骨との固着を良くするため、骨や歯を構成する成分の一種「ハイドロキシアパタイト(HA)」を人工股関節の表面に溶射している。新製品はHAに酸化銀を2―3%含ませて溶射し被膜を形成した。酸化銀の濃度が高すぎると銀の殺菌能力が骨の細胞を破壊してしまい、骨と固着しにくくなる。新製品は骨の細胞に障害を与えない範囲で被膜に酸化銀を含有した。

 開発した被膜はメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)や大腸菌など、感染症の主な原因となる6種類の細菌に対する抗菌作用を確認した。2014年1月から銀被膜付きの人工股関節の臨床治験を実施。同意を得た66―86歳の男女20人に同人工股関節を使ったところ、感染症例はなかった。

 人工股関節を使った手術は日本で年13万例以上行われている。日本整形外科学会の試算によると、全体の1%強で傷口の腫れや痛み、発熱を伴う感染症が発生している。症状が重い場合は埋め込んだ人工股関節を一度取り外し、治療する必要がある。
日刊工業新聞2016年3月7日 科学技術・大学面
斉藤陽一
斉藤陽一 Saito Yoichi 編集局第一産業部 デスク
 佐賀大によると、人工股関節の感染症は多くが術後1カ月の間に発症。全体の発症件数のうちおよそ半分は何回か傷口を洗浄することで症状が改善しますが、残り半分は埋め込んだ人工股関節を一度取り除いて治療し、また埋め直す再手術が必要になるとのことです。発売する銀被膜付きの人工股関節は、この「術後1カ月」という発症のピークに対応するため、4週間程度は抗菌作用が持続するように設計してあるそうです。  なお人工股関節のうちセメントを使わずに骨と固定する「セメントレス」のタイプは約9割を占めます。従来のハイドロキシアパタイトによるコーティングは色が白っぽくなりますが、銀を混ぜると写真のように黄色っぽくなります。コーティングの表面は微細な凹凸があり、ざらっとした質感。この微細な凹凸に骨の組織が入り込むことで、骨と人工股関節がしっかり固定されるという仕組みです。

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