研究者が語る産学連携。モノづくり中小企業の「宝」探す

左から村上氏、高橋氏、中村氏

 独自技術を持つ中小企業にとって、大学との共同開発を通じた事業拡大への期待は大きい。一方、厳しい台所事情にある大学にとっても企業との共同研究費を継続的に増加させることは重要課題だ。そんな両者が、より多くの接点を見いだし、連携の敷居をもっと下げるには―。産学連携に意欲的に取り組む研究者の話から、モノづくり中小企業の可能性を考える。  2016年1月末に政府が決定した「第5期科学技術基本計画」―。企業、大学、公的研究機関間の研究者の移動数を2割増とすることや、企業から大学への共同研究受入額を5割増といった目標が並ぶ。  とりわけイノベーション創出において、意思決定が早い中小企業は重要な割合を果たすとして、特許出願件数に占める中小企業の割合を15%(14年度は13%)に引き上げる目標も盛り込んだ。「産学連携は小規模な活動が多くいまだ本格段階に至っていない」と指摘。人材、知、資金が組織の壁を越えて縦横無尽に行き来する社会環境を目指す。 「地域発」重視  地域発のイノベーションを重視する政府方針を踏まえ、文部科学省が16年度にスタートする新たな産学連携支援策。地域をあたかもひとつのベンチャー企業に見立て、技術開発から研究成果の事業化、資金調達など、成長段階に応じた戦略立案を後押しするのが特徴だ。  ビジネス経験豊富な人材などで構成される「事業プロデュースチーム」を設けた大学を対象とするもので、市場や収益性を意識した研究開発やビジネスモデル創出を狙う。 交付金依存から脱却  民主党政権下での「事業仕分け」による科学技術予算の削減や12年間で12%に上る国立大学の運営費交付金の削減など、研究者には逆風の時代が続いてきた。大学にとって交付金に依存しない財源確保の観点から、企業との共同研究は一層、重視される。  2月10日の衆議院予算委員会―。運営費交付金をめぐる方針について、安倍晋三首相は地元の山口大学を引き合いにこう答弁した。「(大学が)知的基盤として産学連携をさらに進めていく取り組みを行いながら収入を増やしていく。そういう努力を後押しする意味での(運営費交付金の)改革を進めていく」。 「リーダー『投資』感覚必要」  かつては知的クラスター創成事業、現在は(地域を越えた連携を後押しする)京都地域スーパークラスター事業の長野サテライトに関わっている。  一連の経験から実感するのは、産学連携プロジェクトを成功させるには研究リーダーに「投資」の感覚が重要であること。研究者は予算獲得のためのテーマ設定に陥りがちだが、リーダーが研究者としての強みが生かせるテーマに変更してもらうとよいケースもある。  事業仕分け以降、産学連携においてアウトプット重視が色濃くなっている。もちろん技術の強みは育てていかなければならないが目下、役に立つ研究ばかりでなく将来、社会を大きく変えるような夢のある研究を大切にする土壌を育てたい。  技術スピードはどんどん早まっており、「役に立つ」ことばかりを追求していると収益化の前に陳腐化する。企業との共同研究に際しては「何を目指す研究なのか」について共通認識を醸成した上でスタートすることが肝要だ。  共同開発先の中には、自社技術を生かした新素材が製品化できたものの価格競争に巻き込まれ、経営破綻に追い込まれた不幸な結末もあった。この技術は別のベンチャー企業に引き継がれたが、この企業も経営が行き詰まり、新たな経営者の下で15年夏に再出発した。  新会社は信州大の繊維学部内にある産学連携施設に拠点を構え、さらなる開発と市場開拓に取り組んでいる。”技術が経営を選ぶ“市場戦略や経営手腕の大切さを実感させるケースである。 <次のページは、長岡技術科学大学の高橋氏、千葉大学の中村氏に聞く> 「『技学』の力で競争力発揮」  長岡技術科学大学は実践的な能力を備えた技術者育成が設立の理念だけに産業界との関係は深い。私自身、企業の開発現場に飛び込むことを心がけている。  ヨネックスと共同開発した高速サーブを可能にするテニスラケットは、地元にある国際的な企業が本学の力を使ってくれないのはもったいないと思い、開発関係者を集めてもらいプレゼンテーションをしたことが発端。偏光高速度カメラを共同開発したフォトロンは東京の会社だが、ユニークな技術が目に留まり、やはりこちらから共同開発を提案した。  最先端の技術ばかりを扱っているわけではない。いま進めている研究は、大手企業とが5社、中小とは8社。ある工程の生産がうまくいかないなど日常的な相談から開発に発展するケースも少なくない。  経験に裏付けられた技術やノウハウである「暗黙知」―。ここにサイエンスが加わることで技術開発の視界が一気に広がることがある。これが「技学」であり、それによって日本のモノづくりは競争力を発揮してきた。  多くのイノベーションを生み出すには、大学はより多くの暗黙知に触れる機会を作り出さなければならない。企業にとっては、競争力の源泉である技術をオープンにすることに慎重なのは当然。この大学なら安心して技術を出せるとの信頼関係が構築されて初めて、我々は見たこともないような中小企業の「宝」に触れることができる。 「医療現場のニーズ理解を」  産業としての医療のすそ野は広く、とりわけ私が携わる外科医療は、機器開発へのニーズが強い。内視鏡外科手術の訓練機器が企業との共同開発から誕生したのも、医療現場が抱える課題を企業にぶつけたことが発端だ。  患者への負担が少ない内視鏡手術や腹腔鏡下手術が増える一方で、医師側には、習熟のための訓練や負担軽減が必要となっていることが背景にある。高価な臨床用ではなく、研修医でも購入可能で気軽に使える内視鏡外科の練習用手術器具(持針器)がないものか。  我々の声に応えてくれた企業は、医療機器の製造販売経験はなかったが、試行錯誤を重ね期待に応えてくれた。6月には別の企業と共同開発した「ウエアラブルチェア」を発売予定。手術中の医師の長時間の中腰姿勢をサポートするものだ。  これらは、法律で規制される「医療機器」ではないので、開発後の市場投入は容易だ。だが、ポイントは実際の手術で使用する機器とかけ離れたものでは困るという点だ。  練習用持針器の開発企業も、当初はマジックハンドのような簡易な構造をイメージしていたようだが、我々が繰り返したのは「たとえ練習用でも臨床用と同等の品質を実現しないと使ってもらえない」点だ。医療現場の特殊性を理解してもらってからは早かった。この企業は、積極的に医療関係の学会にも参加し事業化に成功している。 (文=神崎明子)

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