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「原発再稼働と同じく電力自由化も部門を越えた協力が必要」(九電社長)

瓜生道明インタビュー。規制側との意思疎通に最大限の努力
「原発再稼働と同じく電力自由化も部門を越えた協力が必要」(九電社長)

瓜生道明氏

 昨年、東日本大震災後の新規制基準に基づく川内原子力発電所(鹿児島県薩摩川内市)の再稼働を果たした九州電力。しかし玄海原子力発電所(佐賀県玄海町)の再稼働や再稼働後の設備体制、電力小売り自由化など大きな課題は残る。今後の対応や事業展開を瓜生道明社長に聞いた。

 ―昨年は川内原子力発電所が再稼働しました。
 「新規制でのトップとして次の原発に引き継がなければというプレッシャーがあった。規制側が何を求め、我々がどう応えなければならないのか意思疎通に最大限努力した。設備は停止期間が長かったので総点検を何度しても不安だった」

 「再稼働は原子力部門だけでは不可能だったと思う。全社を挙げて取り組んだからこそできた。目標に向かって全社員が力を惜しまず集中した。そして力を合わせればできるという自信がついた。電力自由化への対応でも部門を越えた協力が必要。川内の経験は自由化での強みになる」

 ―玄海原子力発電所(佐賀県玄海町)が再稼働した後の火力発電設備の体制についてどう考えていますか。
 「発電設備は需給だけでなく、国のエネルギー政策も勘案する必要がある。電力需要のキロワットは伸びない時代に入ってきているのは確か。原発4基の復帰後の設備構成をどうするかは重要な課題になる。特に石油火力をどうするかだが、燃料が長く備蓄できるなどセキュリティー面で強いところがある。万が一の場合にすぐに動かせるものを持っておきたいので悩ましい。理想は、使い勝手が良く、自由度と競争力が高い設備体制だ」

 ―電力小売り自由化への対応は。
 「新料金プランは現時点での最善策。この料金で終わりではない。動きださないと分からないが、新電力から狙われるであろう使用量が大きな所にはある程度の手を打てた」

 ―今後の海外事業をどう展開しますか。
 「海外は資金力が必要で今は余裕がないが重要であることは変わらない。そこで現在はコンサルティングに力を入れている。その国の実態や人を知り、つながりをつくれる。将来、そこでIPP(独立発電事業者)事業をするかもしれない。長持ちする運転やメンテナンスを教え、その国の技術力向上に貢献する。それで日本への信頼が高まり、日本の製品に対する見方が良くなれば、国内産業の発展を後押しし、電力需要の拡大につながるはずだ」

【記者の目・試練越え、次は「攻め」】
 原発停止で収支が悪化した九州電力は徹底的なコスト削減を強いられた。川内原発を再稼働させるまでを含めた取り組みで、企業体質が大いに鍛えられたと言える。電力に続きガスの自由化も始まる。東南アジアなど海外の成長を取り込む必要性は高まるばかりだ。試練を越えた九電がどのような攻めに転じるかに注目したい。
(聞き手=関広樹)
日刊工業新聞2016年2月19日エネルギー面
永里善彦
永里善彦 Nagasato Yoshihiko
九州電力は、安定した電力供給と安いコストで安定した収入が期待される川内原子力発電所を再稼働し、経営を安定化した「再稼働が原子力部門だけでは不可能で全社を挙げて取り組んだからこそできた。電力自由化への対応には部門を越えた協力で乗り切る」との社長の意気込みは大いに評価できるが、小売り自由化の荒波が押し寄せる関東、関西の電力業界は関連業界を巻き込んでバトルが繰り広げられている。戦場から離れた九電のみが安泰という保証はない。「新電力から狙われるであろう使用量が大きな所にはある程度の手を打てた」という守りは重要だが、攻めの姿勢も必要である。迫りくる第4次産業革命(Industrie 4.0)に呼応して荒波を乗り切る戦略が求められる。

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