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【連載】アジアの見えないリスク#7日系工場が多いタイの意外な落とし穴

厳しい外資規制に特有の登記手続き
 「この輸入販売による売り上げは、外国人事業法違反です」。日系自動車部品メーカーA社がタイ工場の操業を開始して半年後、会計監査に訪れた会計士が指摘した。

 A社は、顧客である一次サプライヤーB社からの要請で、B社の工場のあるタイに工場を建設した。A社にとって初の海外進出で、地元コンサル会社のサポートを受け、会社設立、工場建設を終え、生産を開始した。B社からの受注も順調に増え、日本で納入している高品質の部品の発注も入ってきた。そこで、A社はタイでの製造販売に加えて、日本の本社が製造した部品の輸入販売も開始した。

 ところが、会計士の見解によると輸入販売は、タイ資本との合弁にするか、1億バーツ(約3億3000万円)増資しないとできないという。工場建設に資金を使ったばかりで多額の増資は無理だ。コンサル会社は、タイ投資委員会(BOI)の投資奨励制度を利用すれば独資で進出が可能だと言っていたのだが…。

 BOIの投資奨励制度を利用すれば独資が可能という理解は、必ずしも間違いではい。だが、その対象は投資奨励の許認可を得た事業のみで、その後に開始した別の事業には及ばない。A社が許認可を受けたのは製造販売事業で、外資の参入が規制されている輸入販売事業を開始することは違法だったのだ。

受託製造やOEMは「製造業」に含まれず


 この他にも、タイの外資規制には意外な落とし穴が多い。例えば、受託製造やOEM(相手先ブランド)は、顧客が指定する仕様に合わせて生産を行うサービス業に該当すると解釈されており、「製造業」(外資100%での運営が認められる)には含まれない。

 また、販売後の保守・修理は製造業の一環ながら、一定の場合には外資の参入が制限される。貸付行為も外資規制の対象であるため、グループ会社間の貸付実行にも許認可の取得が必要となる。

 こうした認識不足のために知らずして法律違反を犯している企業は少なくない。A社のように、進出当初は外資規制を遵守していたのに、事業拡大の過程で法的確認を怠り、違法状態に陥った例も散見される。

 コンサル会社のアドバイスが正しいこともあるが、法的根拠の説明が不十分なこともあるし、中には悪質な業者もいる。「これが取引慣行です」という説明に対しては、「その法的根拠は何か」「異なる解釈の可能性は無いか」を質問して、答えを明らかにすべきだ。

 弁護士などの確実な専門家を利用した情報収集や法的検討を怠ってはならない。タイの弁護士制度が日本とは違うことにも注意が必要である。
【在タイ日系企業が見落としがちな外資規制対象業務】
・輸入販売業務
・受託製造及びOEM製造
・アフターサービス及びメンテナンス
・ローン提供及び保証担保提供
・土地建物の賃貸
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日刊工業新聞2016年2016年2月12日/19日国際面
村上毅
村上毅 Murakami Tsuyoshi 編集局ニュースセンター デスク
海外拠点の指揮統括はどうしてもそこの拠点に任せがちだ。記事にある「どのような事態となっても手詰まりを回避できる」ような制度設計といのは、海外だけにより重要になるのだろう。

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