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市場拡大とともに注目される炭素繊維リサイクル。東レと豊田通商が開発へ

名古屋にパイロットプラント、今秋に稼働
市場拡大とともに注目される炭素繊維リサイクル。東レと豊田通商が開発へ

東レの炭素繊維「トレカ」はトップシェアを誇る

 東レ豊田通商は18日、炭素繊維リサイクル技術の開発に共同で取り組むと発表した。両社が開発する「革新省エネルギー熱分解法による高効率リサイクル炭素繊維製造技術」を、将来の事業化を見据え、実証する。豊田通商の100%子会社、豊田ケミカルエンジニアリング(名古屋市中村区)の半田工場内にパイロット設備を建設し、今秋に稼働の計画。投資額は非公表。

 炭素繊維リサイクルのうち熱分解法は、炭素繊維複合材料を加熱してマトリックス樹脂を熱分解し、炭素繊維を回収する。両社の技術はその際、燃料にマトリックス樹脂の可燃性分解ガスを用いて大幅な省エネを目指す。両社は技術実証とともにリサイクル炭素繊維の用途開発も進める。

 両社による今回の技術は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の平成27年度「戦略的省エネルギー技術革新プログラム」に採択された。

自動車用途は25年に3000億円超


日刊工業新聞2015年12月7日


 炭素繊維ビジネスが一大産業に飛躍を遂げそうだ。現状の主用途である航空機や風力発電ブレード向けなどに加えて、軽量化の“切り札”として自動車用途での採用が本格化する見通し。2025年には市場規模が約3倍に膨らむという試算もある。炭素繊維市場は日本企業が世界シェアで6―7割を握るが、各社とも中間基材など事業領域の強化に乗り出している。

 富士経済がまとめた2025年のPAN系炭素繊維複合材料(成形加工品)の世界市場は、14年比2・7倍の2兆5586億円と急拡大を予想する。鉄など他の材料と比べ、圧倒的な軽量化が可能となることが魅力で、多様な用途で採用が見込まれている。

 中でも注目すべきは自動車用途だ。世界的に燃費規制が強まる中、軽量化による燃費性能の向上の期待から、欧州車をはじめ炭素繊維複合材料の普及が加速。自動車用途は25年に同4・5倍の3278億円になると予測した。20年にかけて、電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHV)の市場投入が活発化し、炭素繊維複合材料の採用車種も高級車を中心に増えていくもようだ。

 日系炭素繊維メーカーの動きも活発だ。9月に東レがプリプレグ(炭素繊維樹脂含浸シート)用樹脂の開発・製造会社の伊デルタテック(トスカーナ州)に資本参加を決定した。三菱レイヨンはドイツに炭素繊維中間基材の一種であるシート・モールディング・コンパウンド(SMC)の工場新設を決めた。燃費規制という“追い風”に、各社とも商機を見いだしている。
(文=浅海宏規)

ファシリテーター・峯岸研一氏の見方


 日本でも熱分解法による炭素繊維のリサイクル実証プラントが建設に向けて動き出しますね。EUや米国では同法によるリサイクルプラントが稼働しているようですが、注目されるのはリサイクルによる炭素繊維の再利用とともに環境負荷軽減です。

 炭素繊維は飛行機やスポーツレジャー向けに加え、燃料電池車や電気自動車の普及により自動車向けでも需要拡大が見込まれますが、そのためにはこれまで以上にリサイクルへの対応強化が不可欠です。しかし、マトリック樹脂の分離や高強度、耐熱性など素材特性から、リサイクルが難しいだけでなくコスト高が課題になります。
<続きはコメント欄で>
日刊工業新聞2016年2月19日 素材面
峯岸研一
峯岸研一 Minegishi Kenichi フリーランス
 東レとトヨタグループの豊田ケミカルエンジニアリングが取り組む熱分解法による炭素繊維リサイクル実証プランドは、マトリック樹脂を加熱した際に発生するガスを燃料として用いることで、課題であるコスト効率化が可能になるとのことです。炭素繊維は製造過程でアクリル長繊維を超高熱で二工程に亘って焼成することから大量の二酸化炭素が発生します。それだけにマテリアルリサイクルで環境負荷を軽減にどれだけできるかは、炭素繊維の今後を左右することは間違いありません。

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