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深層学習の旗手はどんな人材を求めているのか

PFNの長谷川取締役に聞く「とがった人。そしてアルゴリズムを作れないと働けない」
 NTTトヨタ自動車ファナックパナソニック―。日本を代表する企業と相次いでパートナー契約を結んだベンチャー企業がある。人工知能(AI)の重要な技術である機械学習やディープラーニング(深層学習)を得意とするプリファード・ネットワークス(PFN、東京都文京区)だ。長谷川順一取締役最高戦略責任者に”人気“の秘訣(ひけつ)やPFNの将来像を聞いた。

 ―最も注目されるベンチャー企業と言われます。なぜでしょう。
 「他がやっていないことをやっている。他に選択肢がないからではないか。AIの産業応用へ期待が高まる中、カギとなる技術の深層学習に知悉(ちしつ)するエンジニアが世界的な争奪戦になっている。エンジニアの中でも深層学習を『上から下まで』きちんと分かり、世界で深層学習にどんな動きがあるか把握して開発するところはPFNの他になかなかない」

 ―どうしてそういったエンジニアを抱えられたのですか。
 「PFNのメンバーは10年前からずっと機械学習に携わっていた。機械学習が『何それ?』と言われた時代からの蓄積がある。さらに機械学習に強い世界トップレベルの人材がいるおかげで若く優秀な人材が集まってくる」

 「従業員数は現在30人弱で、今も採用活動をしている。世界各国から応募があり、そこから超優秀な人を厳選する。欲しい人材はとがった人。数学、物理学、生物系など多くの分野の専門家が対象になる」

 ―なぜ多様性を求めるのですか。
 「ロボットや全遺伝情報(ゲノム)、自動運転車など顧客の分野ごとに深層学習を早く当てはめるには、必要な知識を持つ多様な研究者が要る。さらに、我々の仕事はアルゴリズムを作り出すことと、世界の最新の論文を見て、それを実装して試すこと。これができないとPFNで働くのは難しい」

 ―PFNの現状とビジョンは。
 「トヨタやファナックの出資で資本金は設立当初の2220万円から約10億7000万円に増えた。一応19年までの株式上場とは言っているが、資金調達の必要がなければしない。事業は自動車、製造業、バイオ・ヘルスケア関連の研究開発が柱。自動運転車や誰でもすぐ使える産業用ロボットの実現などを目指している。パートナーと2、3年先のビジネスの姿を探りつつ研究開発を進めており、利益も出ている」

 「パートナーの数もあまり増やせない。我々の技術が適応できる分野で、相手も対等な立場で真剣に向き合ってくれ、かつウィン―ウィンの関係になれるところと組む。我々は自動化をやろうとしている。従来技術が不要になるという決断を伴うので、トップの理解がない企業とは組めない」

【記者の目・ソフト自作にみるスゴさの一端】
 AIに携わる企業は多いが、どこの技術が優れているか素人目には分かりにくい。PFNのスゴさの一端は、無償公開された深層学習ソフトの使い勝手に不満を持ち、自作のソフトを作ってしまったこと。初期型は2、3カ月でできたという。ある意味、深層学習ソフトを公開する米グーグルやマイクロソフト級と言える。
(聞き手=石橋弘彰)
日刊工業新聞2016年2月10日 ロボット面
政年佐貴惠
政年佐貴惠 Masatoshi Sakie 名古屋支社編集部 記者
とがった技術に特化しビジネス展開できるのはベンチャーならでは。日本でもPFNのようなベンチャーを増やすには、優れた技術を持つベンチャーに対する支援が欠かせない。以前に比べて投じられる資金の額や枠組みは増えたと思うが、もっと効率的・効果的に回す必要があると感じる。

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