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合繊原料の生産調整相次ぐ。化学各社、傷が深くなる前に構造改革へ

中国メーカー供給過剰で採算悪化長引く
 中国メーカーの供給過剰で合成繊維原料の採算悪化が長期化している。このため、三菱ケミカルホールディングス(HD)は海外のポリエステル繊維原料生産設備の減損損失を計上。宇部興産と住友化学はナイロン原料、旭化成はアクリル繊維原料の生産調整を行った。中国メーカーの生産増強は今後も続く。早期の採算改善が見込めず、傷が深くなる前の抜本的な構造改革が求められそうだ。

 三菱ケミカルHDは海外4カ所にあるポリエステル繊維原料の高純度テレフタル酸(PTA)生産設備のうち、インド(年産能力127万トン)、中国(同60万トン)で減損損失計628億円を計上した。韓国(同180万トン)も4系列ある生産設備の2系列を休止している。

 PTAは中国で需要を大幅に上回る生産増強が続き、15年の平均稼働率は64%に減った。採算を示す直近のスプレッド(原料との値差)は1トン=70ドルと11年の3分の1以下に落ち込んだ。

 今後も三菱ケミ全体のPTA年産能力(430万トン)を上回る年500万トン以上の生産能力増強が中国を中心に続く。当面、スプレッドが100ドル超になる可能性は低く「16年度中にPTA事業をどうするか決める」(小酒井健吉専務)。

 また、ナイロン原料のカプロラクタム(CPL)は、15年12月のアジア契約価格が6年11カ月ぶりの安値となった。このため、住友化学の10―12月期の平均稼働率は9割弱にとどまった。宇部興産も宇部ケミカル工場(山口県宇部市)とタイで若干の生産調整を行った。旭化成もアクリル繊維原料のアクリロニトリル(AN)生産設備の平均稼働率が85%となった。

 このほか、光学部材原料のフェノールも中国メーカーの生産増強を受け需給バランスが崩れたため、三井化学は1―3月期の生産設備の平均稼働率が約80%にとどまるとした。

 いずれも中国の生産増強は今後も続く見通し。各社とも国内生産再編などの採算改善策を打ったが、円安や原油安の恩恵で業績が好調なうちに、さらなる構造改革を行う必要がある。
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
 中国が合成繊維原料の生産を増強するきっかけは、リーマン・ショック後に景気刺激策として実施した4兆元(約57兆円)の大規模投資だ。この投資で新設した生産設備の稼働が13年ごろから本格化。ナイロンなど合成繊維原料の市況が下落し、現在の採算悪化を招いた。  CPLの1月のアジア契約価格は前月比105ドル安の1トン=1175トンと、04年1月以降で最安値を更新した。宇部興産はCPL中間原料であるアノンの製法転換によるコスト削減を打ち出したが、各社とも採算改善策をさらに急ぐ必要がある。 (日刊工業新聞社編集局第二産業部・水嶋真人)

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