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“試練で会社は強くなる” 長崎の100年企業、本田商會

“試練で会社は強くなる” 長崎の100年企業、本田商會

社員が一丸となり、社会に役立つ会社へ

 1904年(明37)本田正治が長崎県佐世保市で船具商を始めた。カーバイド(炭化カルシウム)を水と化学反応させて漁業照明に用いる「トーチランプ」を開発し、評判となる。そして14年(大3)正治の妹フクと夫重次郎が長崎市に支店を開設。これが現在の本田商會の創業となる。

 当時からの「社会の役に立つ。利益は後からついてくる」という精神は、ランプの開発・販売に息づき、飛躍した。だが長崎原爆に被爆し同社は重次郎夫妻はじめ従業員全員を失う。それでも長男英夫が復員し、復興を果たす。

 戦後は発電機の普及でカーバイドが伸び悩むと見て、高圧ガス、溶接材料の販売を開始。地質調査、プロパンガス、産業機械・工具など多方面に展開する。造船ブームにも乗り事業を拡大するが、大規模な橋桁溶接工事に際して人件費がかさむなど、経営危機は何回もあった。

 信頼関係を築いていた中小公庫長崎支店(当時)や親和銀行などからの迅速な融資や、岩谷産業をはじめとする取引先から有形無形の支援に支えられ乗り切った。

 90年から社長を務めた本田正昭会長は「100年間の歴史で、15年ごとに事業の大きな節目が訪れている。竹に例えるがそのたびに強固な節ができ会社は強くなった。もっと大きな試練が来てくれと思う」という。「変わり身が早いということではなく、ポリシーを持って新事業を探る。新しい顧客が自然とついて、広がっていくことが大切だ」とする。

 一昨年の100周年式典の場でバトンタッチされた本田郷之社長は、「ここ10年程を見ても新しい顧客、新しい商品と変化している。これが100年の積み重ね。次の100年につなげる」と意気込み、「取引先から必要とされる人材が多い会社、製造業を支える会社」でありたいという。

 現在43歳の郷之社長は60歳までに現在の倍以上の売上高50億円を目指す。現在の社員は49人だが「会社を大きくして雇用を拡大し地域にも貢献する」。具体的には海外市場や大手取引先の一層の開拓を進める。
【企業概要】
 1914年創業。地域密着企業として、工業および医療用ガスなどの高圧ガス全般の製造供給をはじめ、溶接材料、産業資材などを販売する。カーバイドのランプは「大漁灯」として知られ、離島の漁業発展に大きく貢献した。一方、佐世保の本店は大正期に港に近い、市内の万津町に移転。現在はこの地に親和銀行の別館が建っており「当時から現代に至る同行との縁を感じる」(本田正昭会長)という。

※日刊工業新聞では毎週木曜日に「不変と革新パート3ー絆編」を連載中
日刊工業新聞2016年1月21日 総合4面
三苫能徳
三苫能徳 Mitoma Takanori 西部支社 記者
本田正昭会長は事業の節目を竹の節に例えていますが、「節」で強くなると同時に、そもそも同社が竹のようなしなやかさを持っていたことも存続できてきた理由なのでしょう。「もっと大きな試練が来てくれ」という言葉は、自社の理念を信じているからこそ出てくる発言だと思います。

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