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シャープの再建策固まる。閉鎖が噂される栃木、福山など工場城下町の反応は?

ある地元企業、閉鎖報道の電話にしばし無言。「契約金は回収できるのか」という声も
シャープの再建策固まる。閉鎖が噂される栃木、福山など工場城下町の反応は?

シャープ栃木工場

 シャープの再建策がひとまず固まった。主力取引銀行2行から2000億円規模の資本支援を受けることで大筋合意。2015年3月期は、不採算事業の設備減損処理やリストラ費用などで2000億円超の当期赤字に陥り、2016年3月期も赤字が続く見通し。今後は液晶事業の分社化、テレビ・太陽電池事業の大幅縮小、6000人規模の人員削減、国内外工場の閉鎖・売却などを行う予定だ。閉鎖が報じられた栃木工場(栃木県矢板市)や福山工場(広島県福山市)がある地元の反応は?

<栃木>
 栃木工場(栃木県矢板市)の閉鎖検討が報じられた16日、矢板市役所や地元商工団体などの関係者らは情報収集に追われた。商工団体幹部は「シャープ栃木工場は、この地で50年近く操業しており、矢板市の顔。閉鎖が本当なら市経済への影響は計り知れない」と、厳しい表情で説明する。

 ある地元企業の社長は携帯電話を片手に不安な表情を浮かべた。別会社の社長仲間から、閉鎖案を知らせる電話が入ったのだ。電話を切るとしばし無言になり、「雇用はどうなってしまうのか」と不安な表情をみせた。同市ではシャープの取引企業は少なく、直接的な影響は限定的と見られる。ただ、撤退が現実のものになれば、税収減や雇用不安など重大な影響は避けられそうにない。

<八尾>
 大阪府八尾市内のある下請け企業は「当社が受注している仕事は残ると見ている。ただ、さらに厳しくなったら最終的には分からないが」と比較的平静に見守っている。以前はシャープ八尾工場からの仕事もあったが、今は別の事業所向けに納めている。八尾市、隣接の東大阪市でシャープと取引する会社数は絞り込みが進んで久しいこともあり、地域に騒ぎが広がっている様子はない。

<福山>
 福山第1―第3工場(広島県福山市)、三原工場(同三原市)も閉鎖が検討されている。シャープから電子部品を調達している広島県内の電機メーカーは「結構な量を購入しており、これから影響が出てくる」と危惧する。「工場閉鎖で生産が止まるようなら他社への切り替えもやむを得ない」というのが本音だ。技術開発などでも協業中で、「こちらもどうなるのかわからない」。
 
 シャープの太陽光パネルの販売特約店になっている電気工事業者(広島県)は、「1000万円の契約金を納めている。太陽電池事業売却の話が本当なら、特約店を辞めて契約金を回収しなければならない。もし1000万円が回収できなければ死活問題」と心配する。
 
<退職者に興味も>
 シャープに製造装置を納入している機器メーカー(広島県)は、「今は取引がほとんどないので、業績への影響はない」。一方で「リストラで退職する電気・機械系の技術者を採用したい」との考えを持つ。人材確保に苦心しているためで、設計や生産管理などのスキルがあれば「40代でも雇用したい。5、6人は採用可能」と積極的だ。別の複数の装置メーカーも「技術者ならば検討する」「設計や機械組み立てがわかる若者なら雇いたい」と興味を示す。

【今回の再建策のアナリストの見方】
●SBI証券投資調査部シニアマーケットアナリスト・藤本誠之氏●
 報道を見た限りだが、銀行の支援は単なる延命と感じた。工場の売却もとりあえず出血を抑えるといった感じで、シャープに明るい兆しは見えない。シャープの株価は17日に終値で約6%下がった。マーケットはシャープを「買い」と思っていない。

 本社売却の話もあるようだが、ソニーが品川の本社を売却した時とはわけが違う。大阪市阿倍野区にあるシャープの現本社は古く、立地も決して一等地ではない。本社の移転コストや社員負担を考えると、メリットは不透明だ。銀行に対し、身を切る姿勢を示したに過ぎないだろう。

 シャープに必要なのは、ソニーのCMOSセンサーのような有力商品だ。液晶事業が新興国企業にキャッチアップされつつあるなか、新たなヒット商品がなければ現状は打開できない。
日刊工業新聞2015年04月20日最終面から抜粋
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
かれこれシャープを取材をして10年以上になる。今、振り返って「あの時、こうしておけば」ということはたくさんある。しかしメディアの責任もある。2000年代、薄型パネルの投資で液晶とPDPの対決をさんざん煽る記事を書いた。自分もその一人だ。唯一、自分の中で「あの時」を言わしてもらえば、町田社長の後任に片山さんを選んだことではないか。片山さんがダメだというわけではない。40代の片山さんを一気に引き上げるにはタイミングが早すぎた。2010年に病に倒れ亡くなってしまったが、同社の携帯事業をスケールさせた松本雅史副社長を間に挟んでおく人事ができれば、今の状況にならなかった気がしてならない。

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