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今日、阪神大震災から21年ー企業は“事態"へ備えはできているか

神戸からのリポート。首都直下型、南海トラフへの危機管理に
今日、阪神大震災から21年ー企業は“事態"へ備えはできているか

崩壊した神鋼の神戸本社(当時)。震災後、BCPを高度化した

 阪神・淡路大震災から17日で21年。神戸のまちは復興が進み、現在は「ポスト震災20年」の新ステージに入った。ただ30年以内の発生確率が70%とされる首都直下型地震や南海トラフ巨大地震が起きると、日本全体に甚大な被害が予測される。地域経済を担う企業も事業継続計画(BCP)策定などで災害の備えは重要だ。被災経験を持つ兵庫・神戸で企業防災の動向を追った。

 「首都直下と南海トラフの大災害を想定したBCPの策定を決め、2015年夏に本社部門で形にした」。神戸製鋼所の吉田寿環境防災部次長は震災対応の現状を語る。震度7の阪神・淡路大震災で同社は1000億円を超える被害を出した。

これを教訓にBCPを高度化。詳細は明かしていないが、時間軸(事前・直後・初期・復旧期)と項目軸(従業員・生産設備・製品・情報その他)をマトリックス状にし、より細かなBCP手順書を策定した。部署ごとの専門家の配置図も作成。東京と神戸の本社に続き、全国の各工場や事業所でもBCPを再構築中で、定期的な災害訓練にも力を入れる。

産学官で勉強会、危機管理学び非常時に連携も


 神戸市では産学官による危機管理の勉強会組織が01年から活動する。市の危機管理室が事務局の「神戸安全ネット会議」で、神鋼や川崎重工業、コープこうべ、関西電力、大阪ガスなど大手・中堅企業主体に64の事業者と、京都大学や神戸大学など四つの防災研究機関が会員だ。市は「非常時に連携できる仕組みとしても同会議を発展させたい」とする。

 神戸大と阪神高速道路は15年12月、防災・減災に関する連携協定を締結した。両者が連携して神戸に立地するスーパーコンピューター「京」を使い、南海トラフを想定した高速道路の被災度推定などの研究活動も行う。

 一方で中小企業の防災・減災の取り組みは道半ばだ。兵庫の中小企業関連662組合などで構成する兵庫県中小企業団体中央会は、08年度から専門家派遣や関連セミナーを通じ中小のBCP策定を支援する。全般的に関心はまだ薄いが、活動を続け15年度は5企業がBCPを策定した。

 その1社、特発三協製作所(兵庫県尼崎市)は、約半年かけて独自のBCPを15年末に完成した。自動車関連向けなどで薄板精密バネを製造するが、毎日の供給責任がある主力製品を筆頭に、被災後14日で操業度を100%に回復する内容とした。片谷勉社長は「策定したBCPに基づいて近く演習を行い、より中身を充実させたい」と意気込む。

 防災マニュアルはあっても、作成に労力がかかるBCPにまで手が回らない中小は多い。特発三協では「すぐに業績への貢献はないが、差別化や競争力強化につながる」(片谷社長)とみる。兵庫中央会でも「不測の事態が起こった時にBCPは行動のよりどころになる」と必要性を説く。

「復旧は長丁場の戦い」


《インタビュー》河田恵昭氏(関西大学社会安全学部教授・人と防災未来センター長)
 企業の防災・減災対策のあり方について、都市災害研究の第一人者で関西大学社会安全学部教授、人と防災未来センター長(兵庫県の施設)を務める河田恵昭(よしあき)氏に聞いた。

 ―企業防災・減災の現状認識は。
 「この10年、首都直下型地震、南海トラフ地震が起こったら、日本はどうなるかといった国難研究をしている。例えば首都圏で巨大地震が発生し、集中する金融ネットワークが止まれば北海道から沖縄までがまひする。今までの被害は建物が壊れてどうなるという観点。今後はリアル経済だけでなく、先物取引などフローが大きいバーチャル経済もやられるといった視点が必要だ。その観点で企業はBCPを作れているか、意識は低いのでは」

 ―どう対応すればいいでしょう。
 「各社が持っているBCPの前提条件をもう一度、見直してほしい。これだけ経済システムが複雑になれば、被害を受けたら復旧は長丁場の戦いになる。持久戦を覚悟した備蓄をするべきだ。もちろん大手はそれなりにセンシティブで、日立製作所の危機管理体制などはうまくいっている。中小企業はある意味、オーナーがしっかりしていればいい」

 ―あらためて経営者はどう災害に立ち向かうべきでしょうか。
 「規模の大小に関係なく、経営者一人ひとりがこの国を背負って立つ気概を持ったBCPを作ってほしい。(災害を)迎え撃つ姿勢で挑戦してもらいたい」

 ―国に防災省の創設を働きかけています。
 「防災省の創設に向けての基礎的研究を17年度から5年かけて組織を作って取り組む。首都機能の過度な一極集中を放置したままで、防災省ができなかった場合、できた場合のシナリオをはっきり示す。その中で志を持った人材も育てたい」
(文=神戸・広瀬友彦、村田光矢)
日刊工業新聞2016年1月15日「深層断面」から抜粋
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
ちょうど1月に横浜支局から農水省の担当になって直後の震災。95年は地下鉄サリン事件もあり、記者として忘れられない年である。

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