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“平戸市はなぜ、ふるさと納税で日本一になれたのか”を市長に聞いた

黒田成彦 長崎県平戸市長インタビュー
“平戸市はなぜ、ふるさと納税で日本一になれたのか”を市長に聞いた

黒田市長

 ―2012年度はわずか100万円だったふるさと納税が、14年度は14億円に激増して日本一になりました。
 「長崎県平戸市は海に囲まれた人口3万3000人ほどの小さな自治体だ。14年度に日本一になったことで、著書のタイトルになっている『平戸市はなぜ、ふるさと納税で日本一になれたのか』という質問や、舞台裏を知りたいという声が多く寄せられた。たまに、平戸は食べ物が豊富だから日本一になれたという表面的誤解がある。その誤解を解き、全国的に有名な特産品を持たない地域が抱える汗と涙の創意工夫を等身大で知ってほしい。また、軌跡を記録として残すことが大切だと考え筆を執った」

 ―手法を打ち明けることに抵抗は。
 「視察を受け入れており、探れば分かること。それに直接ふるさと納税に携わる農林水産業者だけでなく、市民にも仕組みを知ってほしい。平戸市の戦略は大きく分類して物産戦略、ふるさと納税担当職員の才能、メディア戦略、組織マネジメントに分けられ、さまざまな取り組みをしてきた。例えば、一年を通じて単一の商品を供給できない少量多品種の漁獲構造も、近年の小人数所帯を考慮して数種類を組み合わせることで消費者のニーズをつかんだ。このように一見不利に思える状況を逆転の発想によって乗り越えてきた」

 ―地方創生のビジネスモデルですね。
 「14年度の市外からの寄付者は約3万6000人。これは全国に住民票を持たない平戸市民が同程度いる計算になる。第一次安倍内閣で総務大臣として、ふるさと納税制度を担当された菅義偉官房長官からは、同制度の優等生と評していただいている。必ずしも、この状況がいつまでも続くとは楽観していないが、税金として投資してくれている限り、今後も選ばれ続ける自治体でありたい。そして発展できるチャンスと捉え、市場を大きく育てることで、自立へつなげることが必要だと考える」

 ―14年度の寄付額上位5に、九州の自治体が3カ所入っています。共通点は何ですか。
 「平戸市のふるさと納税担当職員はテレビ放送の当日、問い合わせ対応のため自主的に居残って業務をするなど、精力的に取り組んでくれている。ランキング上位に入った佐賀県玄海町や宮崎県綾町いずれも、若い人に情熱があるという部分が共通点だろう」

 ―市長のおすすめ商品を教えてください。
 「どの返礼品も魅力的だが、個人的には『平戸干物味くらべ』がおすすめだ。あじの開きやイワシ、サバなどの組み合わせで抜群においしい。カタログの写真はプロが撮影しており、百貨店のカタログに引けを取らない。ぜひ一度手にとってほしい」

 ―今後の目標は。
 「平戸市は寄付金に応じたポイント制を導入していて、繰り越しできる。いわば寄付者との“絆”づくりだ。個人だけでなく企業のお中元やお歳暮にも利用できる。返礼品の中には食品だけでなく観光体験型の特典もある。年に1回の旅行から始まり、いずれは移住につなげていきたい。著書を出版した手前、15年度も日本一を目指してやっていきたい」
(聞き手=増重直樹)

黒田成彦(くろだ・なるひこ)氏(長崎県平戸市長)
83年麗沢大学英文卒、同年下条進一郎参院議員(故人)秘書、02年長崎県議会議員、09年平戸市長、13年再選。長崎県出身、55歳。
日刊工業新聞2016年1月11日 books面連載「著者登場」
三苫能徳
三苫能徳 Mitoma Takanori 西部支社 記者
「平戸は食べ物が豊富だから日本一になれたという表面的誤解がある」という言葉が印象的です。 ふるさと納税は国内向けですが、このPRを通じて地方自治体が情報発信やブランディング、マーケティングの手法を鍛えれば、産品輸出や外国人観光客向けツアーなど海外に対するアピール力も強められる気がします。

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