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人工知能と「2045年問題」

人間を超える機械の知性は登場するか
人工知能と「2045年問題」

脳波で動かすアプリ「MindRDR」(出典:MindRDRウェブサイト)

【シンギュラリティ】
 シンギュラリティ(特異点)とは、コンピューター・テクノロジーが指数関数的な進化を遂げ続けることで「人工知能」がいずれは人間の知能を超えて予測不能になるといわれている点のことを指す。このシンギュラリティについて、米国のコンピューター研究者であるレイ・カーツワイル氏は、著書『The Singularity Is Near: When Humans Transcend Biology』の中で「2045年」にその特異点を迎えると述べている。

【パターン認識】
 人工知能の開発での課題は「パターン認識」である。パターン認識とは、画像や音声など雑多な情報を含むデータのなかから意味のあるものを取り出す処理のことである。コンピューターには形の違う猫や、窓越しにいる猫をパターンとして認識することや、「サムライJapanとスペイン無敵艦隊の戦い」といった文脈の真の意味(戦争ではなくサッカーの試合であること)をパターンとして認識することを不得意としている。

 人工知能は人間の赤ちゃんの脳の成長と同じように、多くの知識を学習して成長する。パターン認識の精度を向上させるには、人工知能に学習させること、つまりその学習のもとになる膨大な情報―具体的にはユーザーの多様な嗜好(しこう)の情報―が欠かせない。

 では、ユーザーの多様な嗜好の情報をどう集めるのか。その鍵を握るのがユーザーとインターネットとの出入り口の間のインターフェースだ。現在主流のインターフェースは、スマートフォン等による手入力中心の検索エンジンが担っている。しかし、これが将来にわたって主流でいられるとは限らない。音声認識や脳波認識の技術は日々刻々と進化しており、これらが次世代のインターフェースの主流を担うことになるかもしれない。

 英国の新興企業This Placeは「グーグルグラス」を脳波で動かすアプリ「MindRDR」を公開している。こうした例にみられるとおりインターフェースをめぐる動きは今後、勢いを増すとみられる。人工知能を進化させる鍵としての観点からも、インターフェースの動向からは目が離せない。

【パラダイムシフト】
 カーツワイル氏は、2045年にはナノテクノロジーサイズの人工知能が登場し、人間と一体化すると述べている。ここでペリパーソナルスペース(身体近接空間)という言葉を考えてみる。人間が使う道具(メガネ、つえなど)の空間を、自分の身体の一部として脳が認識するという概念である。人間と人工知能が一体化した場合、当然ながら人工知能の空間を脳が身体の一部として認識するだろう。そうした場合、どこまでを人間の知能として定義すべきなのだろうか。人工知能は学習記憶を簡単にクラウド上で移転でき、さらに自らを進化させていける。

 2045年問題とは、これまでに人間が想像もできなかった世界へのパラダイムシフトといえるのかもしれない。

著者:情報通信総合研究所 グローバル研究グループ副主任研究員 山口平八郎
連載:情報通信が拓く未来(10)人工知能と「2045年問題」
日刊工業新聞2015年03月13日 電機・電子部品・情報・通信面
藤元正
藤元正 Fujimoto Tadashi
カーツワイル氏は2012年、米グーグルでマシンインテリジェンスと自然言語理解の開発チームを率いるエンジニアリング担当ディレクターに就任。果たしてシンギュラリティはグーグルから生み出されることになるのかどうか。

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