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ロボットがAI・シンギュラリティと交差する時代を語ろう

「日本がイノベーションの中心になることは間違いない」(西川PFN社長)
ロボットがAI・シンギュラリティと交差する時代を語ろう

佐倉氏(左上)、西川氏(右上)、松尾氏(左下)、松田氏(右下)

 人工知能(AI)はディープラーニングなどの新技術によって目覚ましい進展を見せている。ロボットと人間が共存する未来について、AI、シンギュラリティをテーマに専門家たちが語り合った。

<パネリスト>
●神戸大学名誉教授/日本天文学会元理事長 松田卓也氏
東京大学大学院情報学環教授 佐倉統氏
●プリファードネットワークス社長 西川徹氏
<モデレーター>
東京大学大学院工学系研究科特任准教授 松尾豊氏


 松尾「人工知能(AI)は1956年以来、現在が第3次ブームと言われている。ビッグデータを活用した機械学習やディープラーニングの技術が大きく進展し、人間の精度を超えた画像認識が可能になっている」

 西川「我々は10年ほど機械学習の実用化を目指してきた。以前は精度的に不十分で、人手でチューニングする必要があった。ディープラーニングによって、人の認識精度を超えるまでになり、また特徴抽出の自動化が可能になった。応用は認識、予測から、プランニングにまで広がってきている」

 松尾「佐倉先生は動物の進化に造詣が深いが、最近のAIにどんな印象をお持ちか」

 佐倉「第3の波というが、今まで理論的に言われながらも実現できなかったことが可能になっただけか。それともパラダイムが変化し、本質的に違うブレークスルーなのか。期待や警戒だけが過度に膨らまないよう、慎重にありたい」

 西川「ディープラーニングはまだ理論的解明が必要な段階。一方ニューラルネットワークはIoTとAIの融合で大きなブレークスルーを起こすだろう。多くの機械が協調することで、新しい応用が可能になる」

2025年までに大脳のようなアルゴリズムを作れれば


 松尾「今までコンピューターができなかった領域に踏み込む大きなブレークスルーなのではないか。松田先生からシンギュラリティに関して伺いたい」

 松田「シンギュラリティは2045年と言われていたが、10年後、25年に日本から起こそうと計画を立てている。それにはハードウエアとソフトウエアが必要だ」

 「PEZYチップの齊藤元章氏は、技術的には『京』の100倍の能力のスパコンが19年までに、1000億コア・100兆インターコネクトで容積0・6リットルの脳コンピューターが25年までに可能だという。人間の脳はニューロンが1000億、シナプスが100兆。脳コンピューターはクロック周波数が10億倍速い。6リットルで全人類の知能が収まるということだ。問題はソフト。大脳のようなアルゴリズムを作れれば、シンギュラリティを起こせる」

 松尾「ハードはソフトが決まれば、それに最適化させるというアプローチもある]

 西川「ソフトは結構解決できてしまうと思う。むしろハードのアーキテクチャー。GPUではインターコネクトの細さなどに限界が見え始めている」

 松田「先の齊藤氏は、例えば今のコア1000・インターコネクト1ではなく、コア1・インターコネクト1000だという。磁界結合、極薄化、フュージョンボンディングの技術でものすごい密度が可能になる」

 松尾「計算のためのハードだけでなく、ディープラーニングと組み合わせるロボット的なハードも進化するのではないか」

 西川「センサーもアクチュエーターも、今は人がプログラムを書く。機械学習ベースになるとそれらの姿も変わるだろう。製造業は制御できるので機械学習が最もイノベーションを起こせる分野だ」

 松尾「国際ロボット展での展示について紹介いただきたい」

 西川「何も教えない状態から徐々に学習してワークをうまくつかめるようになるロボットをファナックと共同出展した。8時間の学習で9割の取得率を達成できる」

 松尾「この技術のインパクトは大きい。取得率の一段の向上は可能か」

 西川「手法を検討すれば可能だ。開発3カ月でここまでできたのは、ファナックの意思決定が早いことも重要な要素だったと思う」

ホーキング博士やゲイツ氏はAIの専門家ではない


 佐倉「生物の進化は非常に長い時間をかけた学習の過程でもある。種としての学習と同時に、個体も学習する。AIロボットは今の方向性で言語や高次認知を獲得するまで進化する可能性があるだろうか」

 松尾「子供の発達過程と同様に認識、運動、言語と進むだろう。硬い・軟らかいという概念と言葉を結びつけられるようになれば、本当の意味での言語理解が可能になる」

 松田「スティーブン・ホーキング、ビル・ゲイツら有名人が発言したことでAI脅威論が話題だが、彼らは専門家ではない。AIが悪意で人間をコントロールするというハリウッド的世界観にすぎない。専門家は意識を持たせるのはまだ先なので脅威に感じていない。ただし「ロボット兵器」の脅威はある。人間の悪用が怖いのだ」

 松尾「AIは目的を持って初めて役に立つ。目的を設定するのは人間だ」

 佐倉「自分に足りない部分を補ってきたのが人間の技術で、AIもこの延長線上にある。一方、フランケンシュタイン・コンプレックスというが、先端技術が制御不能になり人間に危害を加えることへの怖れも根強い。AI脅威論もこれだ。恐怖が先行すると研究開発が滞る。実用化が先行すると強い反発がある。バランスが必要だ」

 松尾「最近「AIが職を奪う」的テーマが話題になっていたが、技術・使い方の正しい理解が大切だ」

 佐倉「SFはある種の社会思考実験。SF作家やアニメ制作者とブレイン・マシン・インターフェースの研究者を招き、社会と技術の具体的イメージを検討しようと考えたが、まだ実現していない」

政年佐貴惠
政年佐貴惠 Masatoshi Sakie 名古屋支社編集部 記者
人工知能の研究開発や実用化に向けた動きが進む一方で、社会はその発展を受け入れる体制になっていない部分が多い。さらに議論を深めると同時に、スピード感を持って実現していくことが必要だろう。

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