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【2016を読む】日の丸ロケットの国際競争力が試される

世界のライバルに比べコストが割高
【2016を読む】日の丸ロケットの国際競争力が試される

H3ロケットのイメージ(JAXA提供)

 日本の宇宙開発が新段階を迎える。国産ロケットによって2015年に商業用衛星が初めて打ち上げられたのを機に、衛星や探査機などを運ぶ国産ロケットに対する期待が一段と高まっている。注目されているのは20年に打ち上げ予定の新型基幹ロケット「H3」。従来機を高度化し、商業衛星の運搬に適した性能にするなど、国際競争力の強化に向けて技術開発が続く。

 H2Aは打ち上げの成功率と、決められた日時に打ち上げを行った割合「オンタイム打ち上げ率」がともに9割を超え、信頼性は世界最高水準だ。現在29機中28機の打ち上げに成功している。

 だがロシア、欧州、米国による衛星打ち上げ市場の国際競争は激しい。国産ロケットは技術力が評価されているが、海外に比べ打ち上げコストが割高であることが大きな課題だ。

 さらに20年にはロシアや欧州のロケットが後継機に移行する予定で、日本を取り巻く宇宙開発環境は厳しさを増すだろう。こうした競争に打ち勝つため、三菱重工業宇宙航空研究開発機構(JAXA)は「基幹ロケット高度化プロジェクト」を進めている。

「H2A30号機」切り離し時の衝撃緩慢に


 ロケットの打ち上げ時のエンジン燃焼の振動や衛星の分離などの際に衛星に衝撃を与える。世界の主要ロケットに比べ、H2A内の衛星は強い衝撃を受ける。そのため従来の4分の1の衝撃レベルとなるような衛星分離方式を開発し、衛星衝撃環境を世界最高水準に高め国際競争力の向上を狙う。

 H2Aの場合、人工衛星はロケット内にある衛星分離部という場所でクランプ・バンドと呼ばれる拘束具で固定されている。従来方式では爆薬を使ってバンドの一部を切断し衛星を解放していた。だが衛星を締め付けるエネルギーが瞬間的に解放されるため、発生する衝撃が大きく、衛星は衝撃に耐えられる設計が必要だった。

 そのため新方式では爆薬を使わず、留め具を外すことでバンドをゆっくり開く構造にし発生衝撃を小さくする。

 2月12日に打ち上げられる30号機では、X線天文衛星「アストロH」の搭載位置をかさ上げし、内部空間に低衝撃型衛星分離部を配置する。同分離部にダミーの衛星フレームを置き、分離機構の作動状況や分離時の衝撃に関するデータを取得する。

「H3」発射作業時間を半減、打ち上げコスト半分に


 H2Aの後継機として20年の打ち上げを目指すH3はH2Aの半分に相当する約50億円の打ち上げコストを目指している。H3は全長63メートルとH2Aより10メートル長く、国産ロケットとしては史上最大だ。衛星の搭載能力もH2Aの1・3―1・5倍と増強されている。また射場整備の作業時間については、H2Aの最短実績が53日間だったのに対し、H3では半分の期間に短縮する。

 ロケットのシステム仕様などの基礎設計に関しては、15年度にほぼ固まった。奥村直樹JAXA理事長は「現状では大きな遅れなどはなく、計画は順調に進んでいる。16年度は具体的な設計段階に入っていきたい」と新基幹ロケットの打ち上げに期待している。
(文=冨井哲雄)
日刊工業新聞2016年1月1日科学技術面の記事から抜粋
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
三菱重工の視点。MRJといいH3といい、「空」のビジネスに経営資源を投入する中で、重工全社の事業ポートフォリオの見直しが今年は一歩踏み込んだ形で出てくるような気がする。重工の社長は4ー5年で交代するケースが多い。宮永体制も4年目に突入するので。

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