ニュースイッチ

老舗の包丁ブランド、キッチン用品でデジタル革命に挑む

貝印、首都大学東京やクックパッドなどと連携し新しいライフスタイル提案へ
老舗の包丁ブランド、キッチン用品でデジタル革命に挑む

高校生チームが洋菓子作りの腕を競う「貝印スイーツ甲子園」

 貝印(東京都千代田区)は、1908年(明41)創業の老舗としてカミソリや包丁で高いブランド力を持つ。しかし包丁以外のキッチン用品でも国内有数のメーカーであることはあまり知られていない。同社はこのキッチン用品のブランド化を重要課題の一つに挙げる。

 象徴的な決断が200アイテム以上あるキッチン用品のブランドの統一だ。従来は約20のブランドがあり、しかも同一製品でもショッピングセンターやホームセンターなど出荷先別に異なるパッケージで出荷していた。

 これを14年9月から3年かけて高級版「Kai House(カイハウス)」と普及版「kai House SELECT(カイハウスセレクト)」の2ラインに絞り込む。ユーザーの認知度や信頼度を高めるほか、パッケージを作り分けるコストや返品コストの低減も期待している。

 少子化や世帯の少人数化が進む中「新ライフスタイルに向けた価格ではない体験価値を提案する」と郷司功執行役員経営企画室長は説く。例えば、ある調査では大都市の20代の6割以上が「週に3回以上調理をする」と回答した。その8割がレシピを料理本ではなくインターネットで検索する。従来と異なるユーザー像がそこにある。

 
 新たな試みとして14年9月には首都大学東京システムデザイン学部と「キッチンデジタルイノベーション」のプロジェクトを立ち上げた。タッチパネル式キッチンタイマー「ボタンのないキッチンタイマー」は成果の一つで、発売を準備中。インターネット上のレシピ情報から最適な調理時間を知らせる。「IoT(モノのインターネット)商品を積極的に提案する」(上保大輔執行役員商品本部副本部長)という方針に沿う製品だ。

 人気レシピ紹介サイトを運営するクックパッドとも連携している。シリーズ第1弾として、ハロウィーン、クリスマス向けのクッキー型や焼き菓子型を14年9月から販売する。例えばケーキ型。従来は直径15センチ―18センチメートルが主流で少人数では食べ切れない。とはいえ、洋菓子は大きさで各材料の比率が全く異なり、素人のレシピ調整は難しい。クックパッドユーザーの声を生かし、直径12センチメートルのケーキ型をクックパッドの専用レシピと合わせて提案し、好評を得た。

 ユーザー層を育てる活動も続けている。高校生チームが洋菓子作りの腕を競う「貝印スイーツ甲子園」は14年度に第7回を迎えた。14年7月からの地区予選に556チームが参加。著名なシェフやパティシエ、料理研究家か審査員を務め、9月の決勝大会はテレビ番組にもなった。
 
 同社は刃物の街、岐阜県関市が発祥地。「しっかりした製品を出すのが基本」(郷司執行役員)とし、伝統に根ざした高い技術力を自負する。その上でユーザーの生活の変化に合わせ「従来にない何かを常に提案していく」(遠藤宏治社長)方針。さまざまなプロジェクトを仕掛け、キッチン用品でもブランドの浸透を図る。
日刊工業新聞2015年04月17日 モノづくり面
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
やはりキッチン用品がビッグデータとまではいかないが、ミドルデータぐらいまでにはなる。老舗企業であってもイノベーションを起こせる好例だろう。

編集部のおすすめ