米国利上げ。「行き過ぎた円安」と「円高への転換」両極端なシナリオはあるか

想定内も新興国経済の影響は見方分かれる

 米国が9年半ぶりに利上げに転じ、2008年秋のリーマン・ショックから続いたゼロ金利政策に終止符が打たれた。日米金利差の拡大から円安・ドル高シナリオが描かれ、輸出主導企業を中心に日本の産業界には追い風との見方が有力だ。ただ懸念材料もある。「行き過ぎた円安」と「円高への転換」という両極端なシナリオだ。いわゆる“黒田ライン”を超えた過度な円安や、原油安・新興国経済の混乱による円高は、いずれも日本経済には向かい風になる。  懸念材料の一つである過度な円安。日銀の黒田東彦総裁は6月に「1ドル=125円以上の円安はない」と発言し、円安が休息したことから、この為替水準が“黒田ライン”と呼ばれる。円安の加速による輸入物価の高騰という“悪い物価上昇”は日本経済にはマイナスだが、黒田ラインを超える円安も可能性として残る。米大統領選が近づくとドル高が進む傾向もある。  もう一つの懸念材料が円高。米利上げによりドル資金が流出した新興国経済が動揺したり、中国経済の一層の減速により原油価格が一段と下落する事態になれば、安定通貨の円が買われやすく、円高局面が現実のものとなる。その時、日銀による追加緩和“黒田バズーカ”の出番となる。 【自動車】米市場底堅く楽観的  「利上げに踏み切ったのは経済の底堅さを裏付けるものであって、市場も底堅さが続くだろう」。日本自動車工業会の池史彦会長(ホンダ会長)は17日の定例会見で、米国自動車市場についてこう話した。ガソリン安も追い風にして足元の米国新車販売は年率換算で1800万台の高水準となっており、この勢いが続くとの楽観的な見方が関係者の間では多い。ただ、低金利ローンが新車販売を支えている側面もある。ローン金利が上昇すると、市場をけん引するサブプライム層を中心に需要が減退する可能性がある。 【建設機械】想定内、影響は限定的  建設機械メーカーは売上高の大半を海外、中でも新興国市場で占める。だが中国は地方政府の公共投資抑制で需要が大幅に低迷。南米や豪州では鉱山機械の販売が不振と、新興国で苦戦が続く。  米国の利上げは、新興国市場での一層の需要縮小を招く懸念がある。だが、コマツの大橋徹二社長は「新興国通貨への影響は、利上げ幅によるが織り込み済み」と影響は限定的と見る。米国市場への影響についても、「住宅着工件数が底堅いなど、実体経済はかなり強い。それほど影響が出ないのではないか」と予想する。 ニッセイ基礎研究所 経済研究部主任研究員・窪谷浩氏「信認守るための決断」  今回の利上げ判断はFRBにとって苦しかったと思う。物価状況を見ると現時点で利上げする必要はなかったのではないか。それでも踏み切ったのは、年内に利上げすると明言しており、中央銀行としての信認を守るためだったのだろう。0・25%程度の利上げであれば、米国経済に与える影響は限定的とみる。今後の利上げについてもFRBは実体経済の状況を注視しつつ、緩やかなペースに抑えると考えられる。  ただ、懸念するのは新興国経済に与える影響。今後も利上げが継続すると見られる中、ドル高が続けば新興国のドル建て債務が膨らむ。これに伴う新興国経済の悪化が、好調な米国市場に悪影響を及ぼす懸念はある。 日本貿易振興機構 海外調査部国際経済課長・椎野幸平氏「トルコなど気がかり」  総論として米利上げが新興国へ大きなショックを与える可能性は低い。まず主要新興国は外貨準備高を月平均輸入額の3カ月以上積み増すなどして、すでにリスク耐性を高めている。また変動相場制を取り入れている新興国では、13年ごろから現地通貨の対ドルレートは下落しており、米利上げは織り込み済みだ。さらにFRBの利上げのペースは、緩やかとみられる。これらの理由から、総論では影響は限定的だ。  しかし、各論では留意すべき国もある。例えばトルコは、外貨準備高の短期対外債務残高が1・2倍と、リスクの目安となる1倍以上は超えるものの、ギリギリだ。インドネシアも同数値が1・9倍と低い上、経常赤字が気になるところだ。

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