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アイリスオーヤマはなぜ精米事業に参入したのか?コメ流通の疑問と「3・11」

目線はすでに海外へ。高気密パックに脱酸素剤のパッケージが受注につながる
アイリスオーヤマはなぜ精米事業に参入したのか?コメ流通の疑問と「3・11」

3合ずつの「個別包装パック」を導入

 1円でも安いコメを選んで、高い炊飯器を買う―。アイリスオーヤマ(仙台市青葉区)の大山健太郎社長は、消費者の行動に抱いた違和感から2013年4月にグループ会社を設立し、精米事業に参入した。核家族や単身世帯が多い社会背景に合わせて3合ずつの「個別包装パック」を導入。また安全・安心や、味へのこだわりを徹底したことが受け、売り上げは右肩上がりで、海外展開もにらむ。国産米の世界に旋風を起こせるか。
 
 アイリスオーヤマは野菜やコメの生産販売を手がける舞台ファーム(仙台市若林区)と組み、舞台アグリイノベーション(舞台アグリ、同)を設立し精米事業に参入。「かんたん、便利、おいしい」(大山社長)と同社が得意とする生活者目線を取り入れ、社名通りの農業改革を起こそうとしている。

 プラスチック家具の雄であるアイリスオーヤマは、なぜ精米業に参入したのか。11年3月の東日本大震災で宮城県沿岸部は津波で甚大な被害を受けた。舞台ファームも、震災で農地と倉庫の6割を失った。同社は13年1月に「第19回東北ニュービジネス協議会ニュービジネス大賞」を受賞。同協議会の会長を務める大山社長と知り合い、意気投合し共同出資会社を立ち上げた。大山社長は「農業に関わろうという構想はなかった。仙台に本社を置く企業として、震災復興の一環で始めた」。被災地の亘理町に「亘理精米工場」を設立。約70人を雇用した。玄米は東北地方の農家から仕入れる。

 農業参入の意向はなかったがコメの流通に疑問は持っていた。「国産米の流通減の原因の一つは売り方ではないか」(同)。一般的にコメは、数キログラム単位でビニール袋に詰めて販売する。日本の多くを占める単身世帯や2人世帯ではコメが余り、古くなったコメは味が落ちる。パンやパスタではこういった問題は起きない。結果、ご飯が食卓に登場する機会が減ったというのだ。

 舞台アグリはコメを3合ずつの高気密パックに詰め、脱酸素剤を梱包。精米後の鮮度を失わないようにした。「ユーザーインの発想で需要を創造する」(同)の言葉通り、単身者や核家族を中心に売り上げは右肩上がりとなった。14年7月に稼働した「亘理精米工場」は3年後に、精米量年間約10万トンのフル稼働を目指す。

 売り方の改革は海外需要も創出した。マレーシアの食品卸業から現地市場向けのコメを受注した。業務用として輸出するのは本件が初めてだ。高気密パックに脱酸素剤を組み合わせたパッケージが、船便輸送での鮮度劣化を防げると判断され、受注の決め手となった。海外では健康志向の高まりから日本食ブームが起きているが国産米の流通量は少なく、需要があると見る。米国や欧州、中国で自社の販売網を活用し、国産米の流通拡大を目指す。

 改革は売り方に止まらない。玄米の保存から精米、包装、精米後の保管などを15度C以下の環境で行うことで鮮度とおいしさを保つ、独自の「トータルコールド製法」を導入。味や食の安全、安心への取り組みも徹底した。玄米の品質管理に始まり、DNAや残留農薬、カドミウム、放射性セシウムの検査を行うほか、味を分析するためのビタミン・アミノ酸やミネラル分析機、固さ・粘り試験機など設備も導入する。

 アイリスオーヤマはかつてペットフードに小分け包装を導入し、業界の定番にした実績がある。売り方を変えることで市場は変わる―。国産米の世界にも、そんな日が来ると確信している。
日刊工業新聞2015年04月13日 モノづくり面
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
イノベーションは「生産」「調達」「流通」のレイヤーで考えると、どの業界でもまず「流通」から起こる。「売り方を変えることで市場は変わる」という言葉は、日本が変わることと同義語に近いのではないか。

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