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経団連会長の「言質」とった安倍首相

「前年上回る賃上げ」は実現するのか
経団連会長の「言質」とった安倍首相

経団連の榊原会長(左)と安倍首相

 政府は26日、産業界との意見交換会「未来投資に向けた官民対話」を開き、賃上げと設備投資の今後の方針を聞き取った。経団連は2016年春闘で、収益が拡大した企業に15年を上回る賃上げ(年収)を呼びかけると表明。設備投資も、政府が早期の法人減税や規制改革など“九つの政策対応”を講じれば、18年度に81兆7000億円と15年度比で約10兆円増加できる見通しを示した。

 経団連の榊原定征会長は「名目3%成長への道筋も視野に置きながら、収益が拡大した企業に対し、今年を上回る賃金引き上げを期待」するとの方針をまとめ、会員企業に賃上げを呼びかける考えを政府に伝えた。

 大手企業は15年まで2年連続で2%台の賃上げ率、ベア(ベースアップ)を実施している。政府は名目3%成長を目標に掲げており、成長目標に見合う賃上げ率を実現できるかが16年の焦点になる。

 一方、経団連は設備投資について、条件付きで18年度に15年度見通し比で約10兆円上積みできる試算をまとめた。条件は九つの政策対応。法人実効税率の早期引き下げや規制改革のさらなる推進などを政府に要望。榊原会長は同実効税率について「来年度(16年度)に20%台を実現してほしい」と求めた。

 安倍晋三首相は経済界の表明を受け、経団連の設備投資見通しを「意欲的なもの」と評価。賃上げ方針も「今年を上回る積極的な方針が示され、高く評価する」と語った。

 問題は中国など海外景気の下振れ懸念の中、3年連続で高い賃上げ率を実現できるのか。法人実効税率も16年度に20%台まで下がるのか現時点では不透明。また規制改革も同日まとまった「一億総活躍社会」実現に向けた緊急対策では具体策に踏み込んでいない。

お株奪われた連合


 連合は27日、中央委員会を開き、「ベースアップ(ベア)2%程度」を基準とする2016年春闘基本方針を決定した。2%台の要求は2年連続。ベアと定期昇給(賃金カーブ維持)相当分(2%程度)を合わせると、昨年要求と同水準の4%となる。ここのところ連合は官邸主導の「官製春闘」で賃上げの旗振り役のお株を完全に奪われている。ただ、経団連に加盟する大企業しかベアを上げられず、中小企業や地場産業には波及しないのが現実だ。連合の存在意義が試される。
日刊工業新聞2015年11月27日2面
神崎明子
神崎明子 Kanzaki Akiko 東京支社 編集委員
企業の経営判断であるはずの投資や賃上げにまで政府が「介入」する異例の事態。日本経済の足踏み感が強まっていることが背景にあるが、最近の政府の振る舞いは労組の役割を肩代わりしているように映る。連合はどこで存在感を発揮するのか。

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